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長編ホラー
トイレの花子さん
「「ポン」」
「っよっしゃ!」
「うっ…」
「…む」


幾度か目の掛け声で、ようやく決着がついた。
どうやらメンバーは夜風、赤也、真田に決まったようだ。
赤也は明らかに嫌そうな顔をしているし、真田は無表情を貫いている。


「…修行だ…いかなる時も冷静であり続けるための試練なんだ…」
「れ、蓮二どうしよう。弦一郎が壊れた…」
「心配するな。女子トイレになど入ったことがないから動揺しているだけだ」
「う〜ん?男子が女子トイレに入るより、女子が男子トイレに入る方が大変じゃない…?」
「ふふふ」


素直に思ったことを発言した夜風に視線が集まる。幸村だけが楽しそうに笑っていた。


「え…?私何か変なこと言った?」
「別に。俺もその通りだと思うよ?ほら、さっさと覚悟を決めなよ2人とも」
「あ〜もう!!こうなったら、夜風先輩のために全力で頑張るッス!」
「……あぁ。全力を尽くす」


女子トイレに入る覚悟を決めているうちに、噂のトイレは目の前まで来ていた。
決して広いとは言えないが、3人ぐらいなら余裕だろう。


「十分注意しなよ。真田と赤也分かってるよね?夜風に怪我させたら、どうなるか」
「大丈夫だって。じゃ、行ってきます」


夜風は入口から3番目の個室の前に立つ。その場で深呼吸してから、手を持ち上げた。


コン、コン、コン


「『はーなーこさーん。遊びましょー』」


扉を3回ノックし、お決まりの言葉を言う。
周りの温度がスッと下がった。


キイー……


ゆっくり、ゆっくりと扉が開く。
中から立海の制服ではない制服を着た女の子が姿を現す。
彼女は夜風を見てにこぉっと嗤った。
そして、


「夜風ッ!!良かった…!まだ生きてて」


花子さんはいきなり夜風に飛びつく。
真田と赤也はあっけにとられてただ見ていたが、花子さんが真田たちも睨んだのを見逃さなかった。


「…わッ…?」


夜風は飛びつかれた反動でよろけたところを花子さんに引っ張られる。


バタンッ!!


「…!!」
「…花子…さん!?ここから出してッ!」


花子さんは夜風を個室へと閉じ込めた。
個室の外に残った花子さんは、敵意のこもった眼で取り残された男たちを睨みつける。


「…夜風をそこから出せよ。敵じゃないんだろろ」
「嫌よ。あなた達なんかに夜風は渡さないわ」
「…あ?アンタ潰すよ?」

赤也は完全にキレて花子さんにくってかかる。
言われた本人は怖がるどころか、威圧感がさらに増した。


「教えてくれ。お前は味方なのか、敵なのか」
「私は夜風の味方であって、あなた達の味方じゃあないわ。勘違いしないでくれる?」
「お前はなぜ夜風を閉じ込める?俺達はそいつに危害は加えるつもりはない」


夜風も個室の中から反論する。


「弦一郎達は悪い人達じゃないよ!アイツらとは違う!!」
「ごめんねあの時は。あなたが危ないこと分かったのに、助けてあげられなかった…。もう安心して?今回はちゃんと守ってあげるから」
「ねぇ聞いて…!?この人達は信じても大丈夫だよ…。今度こそ大丈夫。だから、開けて…?こんなところに閉じ込めないで…」
「ごめんね。でもこれが夜風のためだから」




威圧感が消え、優しい口調になる。しかし、すぐまた威圧感が戻る。


「どうせ裏切るのでしょう?自分たちが危険になったら。そんなところ見せる前に私が殺してあげるわ」
「俺達は誓った。絶対何があろうと夜風を裏切るような真似はしない!!」
「その通りだよ」


外で待機していた中から、幸村が代表でトイレの中に入って来ていた。
夜風は震える声で訴えた。


「殺さないで…!!皆、逃げて…!!お願い…」
「夜風先輩を置いて、逃げるわけないッス!」
「言うことは立派ね?それなら情けをかけましょうか。苦しませずあの世に送ってあげるわ。痛くて、苦しみながら死ぬよりはましでしょう?クスクスクス」


花子さんが嗤う。
幸村も不敵に笑った。


「それが、夜風を悲しませるんだよ?分からない?」
「後であなた達に裏切られた方が、悲しむわ」
「前の人達のことは知らないけど、俺達と一緒にしないで欲しいな。俺達は裏切らないって言ってるだろう?」
「……そう。やっぱり痛めつけて殺そうかしら。嫌なら、今すぐ逃げるべきね。追いかけやしないから」


どう猛に、獲物を狙うように花子さんは目を細める。
赤也は完全にキレていたことを忘れ、雰囲気に飲み込まれそうになっていた。
それでも、真田も幸村も引くことはない。


「どうするんスか…。殺されるのは嫌なんスけど」
「俺が相手になるよ。だから、他の人に手は出さないで欲しい」
「幸村!?」
「ここは部長の役目だろう?」
「…精市!?止めて!!死なないでッ…」


幸村の提案を意外にも花子さんは受け入れた。幸村を残虐に且つ残酷に殺すことを条件にして。
幸村は真田と赤也を下がらせる。


「自己犠牲は、美しいと思っているなら、愚かね。そんなもの、あなたのただの自己満足に過ぎないわ。
……さぁ、たくさん遊んであげましょうッ」



幸村に向かって、素早く手を伸ばす。花子さんの手は鋭利な刃物のように変貌していた。


「い、いやぁぁああああああ!!」


個室に閉じ込められ、何も見えない夜風の悲鳴だけが、トイレの中で反響して。
…響き渡った。


幸村の運命は…
2011 6/13 更新

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あきゅろす。
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