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鬼灯の冷徹
5話:【伝説の弟と伝説の動物たち】

おはようございます。高槻です。目が覚めたらおかしな部屋にいました。何処でしょうここ。あっ、私死んだんでしたっけ。どうりでこんな所で目が覚める訳だ。でも何故でしょう。おかしい事がもう1つあるのです。   
「ッチ、起きましたか」       
どうして私に馬乗りの状態で、あんたは金棒を振り上げていやがるんだ。 
「おはようございます。現状が理解出来ないのですが・・・・・・」   
「上司より起きるのが遅い部下を私自ら起こしに来てやったのです」         
あぁ。どおりで眉間に皺が寄っている訳だ。
「もう・・・・・・仕事ですか」
「はい、出掛けますよ。3分間待ってやる」
「無理に決まってんだろこのジブリマニアが!」  
どこぞのム○カを連想させる台詞をはいた鬼灯さんは、早くしろと言いたげな顔をして部屋から出て行った。最悪な目覚めなのは、ここが地獄だからでしょうか。 

全力で支度をして5分で部屋を出た。頑張ったぞ私。せかせかと歩いて行く鬼灯さんの後を、まだ覚めきっていない(寝ぐせは直せなかった)頭で付いて行く。
「で、今日は何処へ行くんですか?」
「ある人に会いに行きます」   
「ある人?」           
どんな人だろう。美人か?美人なのか?美人でお願いします!と考えていると急に何かにぶつかった。  
「へぶっ!」      
なっ・・・・・・何て固い!どうやら私がぶつかったのは鬼灯さんの背中だったようだ。え?何でこんなに固いんですか?              
「あ、鬼灯様!お久しぶりです!」      
激突した鼻をさすっていると、前方から少年の声が聞こえた。   
「お久しぶりです。義経公」   
ヨシツネコウ?ハシビロコウ的な。
「あれ?そちらの方は・・・・・・」  
どうやら橋の上に少年は立っていたようだ。私の方を見て首をかしげている。可愛いっ  
「彼女は高槻吉乃。私の部下です。高槻、こちらは義経公。源義経さんです」 
「初めまして高槻様」    
「何を固まっているんです」      
ヨシツネコウって・・・・・・え?義経公?
 
驚きのあまり硬直していた頭がようやく動き出す。
「あっ・・・・・・初メ、マシテ」   
「そんなに固くならないで下さいよ高槻様!
「様だなんて!!吉乃とお呼び下さい閣下!」  
「閣下!?」      
まさかあの源義経公に会う事になるとは・・・・・・。ハシビロコウとか言ってスミマセンでした。 

「あの〜・・・・・・鬼灯様と吉乃さんは恋仲なのですか?」     
「はぁ?ありえません。」       
間髪いれずに答えると、義経公は苦笑いを浮かべた。何をアホな事を言ってやがるんだこの人。実はアホな子だな源義経。っていうか、  
「何で否定しないんですかアンタ」 
「否定して欲しかったんですか」    
白々しく答える鬼灯さん。お前の存在を否定してやろうか!と叫び出しそうになるのを何とか堪え、今日の用件を説明している鬼灯さんを睨む。どうやらポスターのモデルになって貰うらしい。悔しいがその判断は正しいですよ!      
「分かりました・・・・・・」     

あれ・・・・・・?義経公はあまり気乗りしていないようだ。私だったら絶対調子に乗るのに。
「あの、写真とか苦手ですか・・・・・・?」 
「えっ?いやそういう訳ではないのですか・・・・・・」
「義経公は自身の華奢な体にコンプレックスを抱いているようなのです」    
成る程。だからあまり気乗りしていないのか。でも・・・・・・
「私は好きです」      
「おや、いきなりですか。出来れば仕事中じゃない時にお願いしたいのですが・・・・・・」
「いやお前じゃねぇよ」       
誰に対しての言葉か分かっているのに言ってくるんだから・・・・・・この鬼は本当に性格が悪い。
「だってコンプレックスでも人を引きつけちゃうんですから」                   
「えっ?」      
不思議そうな顔をする義経公を横目に私は続きを話した。
「沢山の人に必要とされて、沢山の人を笑顔にできる。そういう人、私は本当に尊敬します」    
思った事をストレートにしか言えない自分の語彙力のなさはさて置き・・・・・・何偉そうに語ってんだ私!恥ずかしッ!今すぐだ、今すぐ穴を掘れ吉乃。橋に穴掘ったら下落ちて流されるけども。いやもういい流れてしまえ。

「あの、有難うございます・・・・・・!!」   
私の脳内葛藤は、義経公の一言で覚めた。   
「もし良かったら・・・・・・またお話させて頂けませんか?」   

義経公の満面の笑みに耐えられる人はいるのだろうか。答えは簡単だ。いない。いる筈がない。
一切の躊躇も考えもなしに、私は本能のままに義経公に飛びついた。瞬間、地面が目の前に迫ったのは私の気のせいなのか否か・・・・・・。


「それでは、ポスターの件よろしくお願いしますよ」
「は・・・・・・はい。あの、吉乃さんは・・・・・・」
「大丈夫です。彼女はもう死ねませんので」                                           


何だかやけに息が苦しい。お尻もズリズリと変な音を立てている。シャワーでも浴びているみたいに頭が濡れているのは気のせいだろうか。 
「――イヤイヤ全然気のせいじゃねぇよ!」    
重かった瞼が急激に開かれた。シャワーじゃない!血だ!コレ!!私の頭から血ィ出とる! 
「あぁ、やっと起きましたか」     
鬼灯さんの声が頭上から聞こえた。状況の理解出来ない私は、頭をフル回転させて辺りを見回す。
どうやら私は鬼灯さんによって引きずられているらしい。そりゃ、まぁ首根っこ掴まれて引きずられたら息苦しいよね。お尻の黒さ(白装束なのにまあ大変だ)から考えて、かなりの距離を運ばれたぞこりゃ。

取りあえず、あいさつ代わりにボディーブローでもかましておこう。そう思い、勢いよく体を捻って鬼灯さんの手を振り払う。そしてそのまま流れるような動作で立ち上がり、腕を振り上げた――瞬間。
「鬼灯様〜〜〜〜!!!」    
 白い大きなモコモコが、私の横腹にめり込んだ。
「ぐふぇぇぇぇえ!!?」
白いモコモコはかなりの勢いを持っていたらしい。突っ込まれた私は、悲痛な叫びをあげつつ8m程ぶっ飛び、逆側の壁に顔面から激突した。
「危なかったぁ〜!今変な亡者が鬼灯様をなぐろうとしてたよ!!!」   
「シロさん・・・・・・。ありがとうございます」   

めり込んだ頭を何とか抜き、突っ込んできたモコモコを睨む。・・・・・・ってあれ?   
「ワンちゃんだ・・・・・・」  
予想外の可愛い生き物の登場に私の心は若干弾んだ。と言う事は・・・・・・このワンちゃんに命令した輩がいるというわけで。その人物を探すべく、私は辺り見回した。
「それから亡者は亡者でもただの亡者ではありません。私の部下の高槻です」   
いや、ワンちゃんに話しても分かんねえだろ。鬼灯さんは案外不思議ちゃんなのですね。さっき喋っていたのは・・・・・・え〜と、えぇと?見回してみてもそれらしい人物はいなかった。    
「えっ!?部下!?ごめんなさい!!俺てっきり鬼灯様の敵だと思って・・・・・・」  
しゅん、としっぽと耳を垂れさせるワンちゃん。随分流暢に言葉を使いおる。・・・・・・ん?待って、何で喋れるんだ!??   

「俺シロ!よろしくね!えーと・・・・・・?」  
「吉乃でいいですよ・・・・・・」   
何でもアリです、地獄って。

あまりの衝撃的事件に遭遇すると逆に冷静になってしまうようです。どうやら、シロ君が特別な訳ではないらしい。シロ君と一緒にいた柿助君もルリオ君も喋っていたし。               
「吉乃ちゃんも今度不喜処に来てよ!」  
『不喜処』とは、シロ君たちが働いている地獄の事らしい。おもに動物が獄卒として働いている地獄だと鬼灯さんが説明してくれた。  
「うん。また今度、行かせてもらうよ」    
また今度の約束をしてシロ君たちは不喜処地獄へと戻って行った(貴重な休憩時間だというのにわざわざクソ鬼神に会いに来ていたらしい)。   

「今日は残りの時間で書類の整理をします。早く閻魔殿へ戻りましょう」    
そう言うと、さっさと歩いて行く鬼灯さん。私は慌ててその後を追ったが1つ、気になる事があった
「あの・・・・・・鬼灯さん」
「なんですか?」        
「白装束って・・・・・・かえられませんか?できれば洋服に」        

昨日はこっちに来たばかりで気にする暇もなかったけど・・・・・・和服って何だか落ち着かない。とにかく走り辛い。これじゃあ鬼灯さんから逃げられないではないか。
「洋服・・・・・・ですか。それならEU地獄にお願いするのが1番早いですね」  
「EU地獄??」    
 聞きなれない単語に首を傾げた。    

「その為にも、今日の内に色々やっておきたいですね。今日の分の仕事をちゃちゃっと片付けますよ」
「分かりまひたから頬引っ張ららいれくらひゃい」
痛いから。乙女のやわ肌が悲鳴をあげてるからマジで。私の頬を無表情で引っ張る鬼灯さんの手を外す。じんじんと痛む頬をさすって、私は鬼灯さんの後を追った。







「やっっっっと終わった・・・・。」   
第一補佐官の仕事量をなめていた。閻魔殿に戻ってから、休憩も取らずに10時間ぶっ通しで作業をしました。10時間って何だよ。ふざけてんだろ。この量をいつも1人でやっていたのかこの鬼。信じられない。
「お疲れ様です。おかげ様で徹夜しなくてすみました」
「しゃれになんねえ・・・」      

本当・・・10時間のデスクワークはキツイ。こんな事ずっとやっていたら・・・          
「早死にします」         
「もう死んでいるでしょう」  
あ、そうだった。じゃない、私はまだ死んだなんて認めてないですから!多分アレだ。臨死体験的なヤツだ。往生際の悪さに定評のある吉乃ちゃんです。   

「さて・・・後はここを片付けて終わりです」     
「えっ、今からですか?もうお風呂入って寝たいんですけど。ああでも着替え持ってないや」 
どうしましょう?と鬼灯さんの方を見るとどうやら何か考えているらしい。私は私で、まだ女性の知り合いはいないから代わりの服を借りる事もできない。う〜ん困った。        
「1度私の部屋に行きますか」          

何故?と考えながら歩いて行くと、私の部屋がすぐ近くに見えた。え?まさか私の部屋に来るんですか?と聞こうと思ったが、鬼灯さんが開けたのは私の部屋より手前にある部屋。       
「こっちです」      
何だか暗くて見えないなと思っていると電気が付けられた。        
「うおっ!ゴチャゴチャしてる上にキモッ!!」  

言い終わるや否や私の頭に衝撃が走る。コイツ・・・また頭殴ってきやがった・・・。仮にも女性である私に対しての扱いじゃないだろう。いや、仮にってか普通に女だけど。    

ごそごそと何かをあさる鬼灯さん。何を探しているんだろうと思いながら周囲を見回してみた。何だか色々あるな・・・。あ、クリスタルひとし君。本棚にあった本は見なかった事にするとして・・・中々面白そうな部屋だぞ。            

「今日はコレで凌ぎなさい」   
突如聞こえたバリトンに驚きながらも後ろから飛んできた黒い物を顔面でキャッチした。これって・・・  
「私のスペアの1つです。大きいと思いますが・・・今日位大丈夫でしょう」   
いやそりゃあ大きいでしょうよ。なにせ鬼灯さんとお揃いの服だ。少々恥ずかしい気もするが・・・ありがたく借りるとしよう。ん?つまりここは鬼灯さんの部屋?もっとぴっちりしていると思っていた。いやそんな事よりも――――私の部屋の隣かよ・・・。     

「ありがとうございます」    
「着替えないんですか?」       
「あなたがいる限りは着替えられません」   
何露骨にムカついた顔してるんですあんた。

服の心配もなくなった事なので、早々にお暇しようと決めた。     
「では鬼灯さん。お休みなさい」  
「明日はEU地獄へ行きます。早く起きて下さいね」
ハイハイと適当に返事をして部屋を出た。





「あれ・・・思ったよりデカい・・・」
お風呂から出た後鬼灯さんの着物に袖を通した。ブカブカと余る袖と、地面にすってしまう裾が鬼灯さんの体の大きさを物語っているようだ。
「何か・・・ムカつくなぁこの身長差」
どうしようもない敗北感を感じつつ、私は毛布にくるまった。

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