鬼灯の冷徹 4話:【一生の不覚】 「結局・・・よく分かりませんでした」 「あの男に頼る事自体が間違えなのです」 終始イライラした様子の鬼灯さんは当然と言うばかりに答えた。 「鬼灯さんは本当に白澤さんが嫌いなんですね・・・・・・」 「ええ大嫌いです。虫唾が走ります。高槻も今後はあそこに近づかないように」 ごめんなさい。桃源郷は最高に素敵なところだから、また行く気満々です。よし行こう、1人でも行こう。 「返事」 「検討します」 しないけどね。ばれなきゃいいだけの話ですし。私の返事が不服だったのか鬼灯さんの機嫌は更に悪くなった。 「今日の仕事はこれで終わりにします。明日も出かけますので準備をしておきなさい」 「私もですか?面倒くさい・・・・・・」 「当たり前です。危険因子のあなたを私が放っておく訳ないでしょう」 危険因子だと?全くもって失礼なヤツめ。というか私このクソ上司から解放される事はないのだろうか?あぁ、考えただけでも胃が痛い・・・・・・。 「もうこんな時間ですか・・・・・・夕餉にしますかね」 「ご飯ですか?よっしゃい!」 「あなた・・・・・・さっき散々食べてたじゃないですか」 「あれはお菓子です」 呆れた顔をする鬼灯さん。お菓子とご飯は別ですからね。 はやる気持ちを抑えつけ、鬼灯さんの後を追った。 食堂、だろうかココは。活気に溢れたこの場所には、沢山の人・・・・・・ではないのか。角生えてるし・・・・・・。とにかくとても混んでいた。 「あっ、鬼灯様だ〜。」 「こんばんは鬼灯様。って昼間の亡者!」 何処からともなく2つの声が耳に入る。振り向くと2人(人じゃないけどもういいや)の小さな鬼が立っていた。2人は鬼灯さんに一声かけてから同じ席に着く。よくもまぁこんなヤツと夕食を共にしようと思うなぁ。逆に関心だよ。 「それで・・・・・・あの、そちらの方は?」 何だかソワソワした様子で黒い髪の鬼君がこちらを向いた。 「あぁ。紹介がまだでしたね。彼女は高槻吉乃。亡者です」 「はじめまして。このクソ鬼に何故かコキ使われている高槻です」 「はっ・・・初めまして。俺は唐瓜。こっちは茄子っていい「わ〜可愛い人だねぇ唐瓜〜」 自己紹介の途中だというのに、えっと・・・・・・茄子君が口を開いた。 「おい!イキナリ失礼だろ!スミマセン。コイツ能天気なやつなんで・・・」 「いや全然!むしろ・・・」 私は思わず、 「好きだわ〜」 茄子君を抱き上げてしまった。そんな様子を見て、顔を赤らめる唐瓜君。あっ、そっか。こういうスキンシップが恥ずかしい年頃だな。茄子君はと言うとニコニコと無邪気に笑っている。うん、茄子君の方が唐瓜君よりちょっと幼い。 「突然すみません。我慢できなくて」 私は謝りながら茄子君を下す。 その後は唐瓜君と茄子君と話ながら夜ご飯を食べた。獄卒でもないただの亡者が、こんな所にいるのは異例の事態だったらしく周囲の視線はとても痛かったが、そんな事はこの際どうでもいい。 そういえば・・・こっちに来てから初めて友達(?)のような存在ができた気がする。私は胸に温かいものを感じながら2人と別れた。鬼灯さんはというと、夕飯の間終始何かを考えていたようだ。眉間の皺がとても怖かったです。 ご飯を食べ終わり、唐瓜君たちと別れて、鬼灯さんと廊下を歩いている時だった。 「高槻」 「何ですか?」 少し怒ったような口調で私の名前を呼ぶ鬼灯さん。 「もっと警戒心を持ってください。いきなり抱きつくなんて・・・・・・茄子さんが相手じゃなかったらどうなっていたか分かりませんよ」 「どういう意味ですか?」 言っている事が良く分からず、思わず首を傾げた。 「こういう事です・・・・・・」 そう言うと、鬼灯さんが私の顎をつかみ無理やり視線を合わせて見つめてきた。首が、地味に、痛いです。 ・・・・・・何だか顔が近いな。おいヤメロ。そんな近くで私を見るな。 「おや、あなたのような人でも赤くなるんですね」 「!!?」 目の前にまで迫った無表情は、絶対的な事実だけを述べた。 鬼灯さんは私から手をはなすと、何事もなかったかのように離れて行く。・・・・・・ッの野郎人を馬鹿にしやがって!確かに私は表情が豊かな方ではない。でも・・・あんたみたいな朴念仁にだけは言われたくないよ。 (顔が赤くなってた・・・・・・か) ――あんな整った顔で至近距離で見つめられたら誰だって赤くなりますよ。 不覚にも緊張してしまった自分にムカつきながら、一人、火照った顔を冷やしていると、頭も冷えてきたのか重大な問題に気づいた。 「私・・・・・・今日から何処で寝るんだろう。」 考え事に気を取られ歩いていると、いつの間にか吉乃を置いて自室に戻って来てしまっていた鬼灯。 (何だか、らしくないですね・・・) 仕事以外に自分の脳内を占領する事態が起きるなど、鬼灯にとってはあり得ない事だった。筈なのに。2年前のあの日から、鬼灯の脳内には“彼女”が居座り続けていた。 (生前、私と会った事も覚えていなかったあたり・・・・・・大丈夫そうですね) 懐かしそうに目を伏せる鬼灯。脳裏に浮かんだのはやはり、上司に向かって真顔で暴言をぶつけてくる、今日できた部下の顔だった。 「戻りましょうか」 小さく呟き、先ほど歩いて来た道を再び戻り始めた。 「何・・・・・・してるんですか」 聞こえてきたのは妙に美しいバリトンボイスだった。 「見ての通り、です」 「ゴミ収集ならよそでおやりなさい」 ゴミ収集とは失礼なッ。一応スイートマイホーム作りですよ。・・・・・・材料は段ボールですけど。鬼灯さんが何処かへ行ってしまってからというもの、何処で寝るか悩んだ私は人通りの少なそうな廊下に目を付け、マイホーム(100%段ボール)の建設を行っていた。 「そんな事しなくてもあなたの寝床くらい確保しましたよ」 こっちです、という鬼灯さんの後ろをついて行くといくつかの部屋が見えてきた。 「ここです」 鬼灯さんの指差した部屋の戸を開けてみると、六畳くらいの部屋にポツンとベッドが1つと大きめの机が置いてあった。ベッドの横にはなんと、窓まで付いている。 「すばらしいです・・・・・・」 何もない。否、必要最低限のもしかない最高な部屋。こういう空間私、大好きです。 「ッチ・・・・・・もっとごっちゃごちゃにしておけば良かったか・・・・・・」 鬼灯さんが何か言った気がしなくもないが・・・うん、聞こえてない、聞こえてない。 とにかく。今日は色々ありすぎて疲れた。早くお風呂入って眠るとします。 [*前へ][次へ#] [戻る] |