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鬼灯の冷徹
3話:【極楽満月。否、極悪鬼灯】
やってきました桃源郷です!流石は天国。景色が違いますよね。あ〜ぁ隣にこんなドS上司がいなかったら最高だったのになぁ。残念!
「何か言いましたか?」
「いえ何も」

読心術者か!とキレのあるツッコミを心の中で入れつつ足元にちょこんと座っているウサギを抱き上げた。
「和むわ〜〜」  
「和んでいないで働きなさい。行きますよ」
「はいはい」
仕方なく、抱き上げたウサギを地面に降ろす。そのまま大人しく歩き出す私だが、心の中は全く大人しくない。ちょっと位別にいいだろ!このワーカホリック!と、叫んでおります。まぁ実際に言う事はできないんだけど。この上司を怒らせると怖いというのは身にしみましたよ。

そうこう考えているうちに「極楽満月」という看板が見えてきた。
「何だか天国っぽい名前ですね。逆に怪しい」
「その通りです。ここの店主はイカガワシイ男なので私の傍から離れないで下さい。取って食われますよ」
嫌だ。食われたくない。食べるのなら私の前にこの鬼を食べて下さい。固そうだけど。 

「入りますよ白澤さん」
そう言いながら、鬼灯さんがドアノブに手を伸ばした時だった。 
「先手必勝だぁぁぁぁア!!」
ゴンッという凄まじい音が、鬼灯さんの頭とドアの間から響いた。どうやら急激に開かれたドアに頭をぶつけたらしい。うわっ、ドアにヒビ入っとる。
「ざまぁみなよ。僕の方が一枚上手だったね」

私は思わずガッツポーズをした。謎の給食当番さんのおかげで、この鬼に一矢報いる事が出来たのだ。私は何もしてないけど。   
「随分な挨拶をしてくれましたね・・・・・・」
喜びも束の間。私の脳内に危険信号が点滅しだした。あ・・・やばい。鬼灯さんが怒ってる。これはとばっちりを食らう、と読んだ私は、ダッシュで鬼灯さんから離れようとする。が、時すでに遅し。がっつり襟元を掴まれていた。 
「2人まとめて逝って来い!」 
その言葉が耳に入ってすぐ、背中をとてつもない衝撃が襲う。あぁ、これアレだ。金棒で殴られたんだ。

冷静に分析していた私は数十メートル程、給食当番さんと仲良くぶっ飛んだ。
勢いよく顔から地面についた私と給食当番さんは、2人揃ってしゃちほこの如くそり返る。うわぁ、哀れな姿、と他人事のように思っていると給食当番さんと目が会った。 
「あれ・・・・・・?君は・・・・・・、っあぁ!!」
急に大声を出したかと思ったら凄い勢いで起き上がった給食当番さん。 
「ひっさしぶり〜!何でこんな所にいるの!?」

目を輝かせて起き上がった給食当番さん。どうやら私と面識があるようだが残念。私には過去の記憶というものがないのです。  

「えっ!?もしかして忘れちゃった!?僕だよ〜ほら穴から這い上がってきてた」
・・・・・・穴から這い上がってたんだこの人。ニコニコと良い笑顔の給食当番さんは、私の手を握ってきた。近いなこの人。
「あまり高槻に近づかないで下さい。この色魔」
そう言いながら、鬼灯さんは、給食当番さん腕を掴むと、私と引き剥がして蹴り転がした。いやね、元はと言えばあんたが殴り飛ばさなきゃこんなに接近する事もなかったんですけど?

ゴロゴロと転がった給食当番さんは、またもやしゃちほこの如く反り返る。 
「高槻には過去の記憶がないんです。というか、あなたはいつ現世へ行ったんですか」  
「お前の落とし穴に落ちた時だよ・・・・・・!」
憎しみの籠もった目で鬼灯さんを睨み付ける給食当番さん。何だよ落とし穴って・・・・・・。と呆れている場合ではなかった。彼は過去の私を知っているようだ。もしかしたら私の死因についても何か知っているのかもしれない。

「しょうがない。じゃあ初めましてだね。僕は中国神獣の白澤。君の名前は?」   
「あ、高槻吉乃です。よろしくお願いします」
白澤さんか・・・・・・。神獣白澤って、確か吉兆の印だったような気がする。何だかヘラッヘラッした人だけど。それに鬼灯さんによく似ている。軽く引く位よく似ている。・・・・・・じゃなくて、

「あの、生前の私との出会い・・・・・・?を教えて頂けませんか?」  
「おやすい御用さ。じゃあ立ち話もなんだし入って〜お前は帰れ」  
「そりゃあ私だって帰りたいですよ。でも注文しておいた金丹を貰わないと。それに私は高槻の保護者ですから、淫獣の巣になどおいていけません」 
保護者って。私は子供じゃありませんよ。白澤さんは渋々と言った様子で鬼灯さんも中に入れた。

店内に入ってみるといたる所に薬草(的な物)が置いてある。漢方、だろうか。独特の不思議な匂いが充満している。

何となく辺りを見まわしていると白澤さんがお茶菓子を出してくれた。うわぁ良い人だ。
「え〜と、僕との出会いだっけ?」 
うんうんと頷きながらお菓子を口に運ぶ。
「うっめコレ」
「・・・・・・随分食べるんですね」
「美味しいですよ。鬼灯さんもどうです?」
「そんな偶蹄類が出した物など食べません」
一瞬で断られた。恐ろしい位に刻まれた眉間の皺は白澤さんに対する嫌悪が見て取れた。
「そんなヤツ放っておきなよ吉乃ちゃん。えーと・・・・・・現世での出会いの話だよね。あれはコイツが掘った落とし穴にはまって下に落ちた時のことだったな〜」

何処か懐かしそうに語り出す白澤さん。その表情はとても柔らかくて愛想に満ちた笑顔だった。見習えクソ上司め。顔が似ていても、表情や仕草で大分変るものなんだなぁ、と改めて思い知りました。
「僕は頑張って現世まで這いあがってきたんだけどさ〜。その時にはもう全身切り傷だらけ。本当ひどいよねコイツ。そんな時に突然吉乃ちゃんが話しかけてくれてさ」



◆◆◆



「大丈夫ですか?全身傷だらけですね。それにその穴、まさか、ブラジルからやって来た方ですか?スゲェ本当に行けるんだ・・・・・・お節介かもしれませんけど傷口が化膿したら後々面倒ですし・・・・・・」  
そう言って彼女は僕の傷口を消毒し絆創膏を貼りつけ出した。人間が僕に気づくというのも珍しい事なので、僕は思わず彼女の顔を凝視してしまう。  
「あ、・・・・・・あの、私の顔に何か付いてます?」 
慌てたように顔をぺたぺたと触りだす彼女。その仕草が可愛らしく、思わず頬が緩んだ。
「い〜や付いてないよ。何だか君も傷が多いね」
彼女の体にもたくさんの真新しい傷が付いており、中にはまだ出血している物さえあった。   
「私は大丈夫なんです。やばい、絶対遅れる!それでは失敬」  
言うが早いか、彼女は凄いスピードで走り去った。
「えっ!?ちょ、名前教えてよ!・・・・・・行っちゃったか。」    

再び一人になると途端に静かになってしまった。僕は無意識の内に手を伸ばし、貼りつけられた絆創膏を触る。
「不思議な子だなぁ・・・・・・。」  
貼りつけられた絆創膏には、まだ彼女の温もりが残っている気がした。


◆◆◆




「・・・・・・とまぁ、それで走り去って行っちゃった訳。ちなみに、あの時の吉乃ちゃんは学生服だったよ」
「・・・・・・学生服で絆創膏を常備していて足が速く傷だらけ・・・・・・。運動部とかか?」     
白澤さんとの出会いから得られた情報からは、私の死因は分からなかった。いや、運動中に熱中症で死んだのかもしれないけど。

「もうこれ以上の情報はありませんね。じゃあ帰りますよ高槻」    
「はぁ?帰るなら一人で帰れよ鬼神。僕たちはこれから一緒に         
「帰りますよね?高槻・・・・・・?」 
「カッ・・・・・・カエリマス。」  
鬼灯さんの目が人を何人も殺った後の目だ・・・・・・。これは帰ると言わないと金棒で殴られる程度では済まないだろう。また来るという約束で、私たちは極楽満月を後にした。

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あきゅろす。
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