季節シリーズ 26. 「真妃。俺、バイトをすることになったから」 あの食事会から数カ月たった頃、突然、大輝から告げられた言葉に反応が遅れた。 大輝も僕もできるだけお互いに一緒に過ごす時間をとるようにしていたし、勉強の事もあったからまさか彼がバイトをするなんて思っていなかったからだ。 「バイト?」 「あぁ。ゼミ仲間の紹介で家庭教師なんだけどな。俺達の高校の後輩で今、2年らしい」 「いつからなの?」 「来月から」 僕の分も淹れてくれたコーヒーをテーブルに置き、いつものように僕の背後から抱きこむように座る大輝に身を預けながら頷く。 「そう、判った。曜日とか期間とか決まってるの?」 「一応、月曜と木曜の週2日で大学受験までって事になった」 「あと、1年ちょっとか・・・・」 「塾に行ってたらしいんだがそこの講師と合わなかったみたいだな。で、カテキョを頼むなら同じ高校のOBがいいって話になったそうだ」 「大輝、ちゃんと教えられるの?」 「う〜ん。教え方は真妃の方が上手いんだけどな・・・・まぁ、何かあったらお前に聞くよ」 「了解。頑張ってね」 「おう」 その話はそこで終わり、あとは大学でのことに話の内容は移った。 “場所は何処なの?”“ご家族は?”“何の教科を教えるの?”“何時から何時までなの?” そして “教える子は男の子?女の子?” 本当はもっといろいろ聞きたかった。けれど、聞くことによって大輝に面倒くさいと思われるのでは、と思うと聞くことができなかった。 大輝は元々、ゲイではない。高校時代から男女問わず人気があったのに僕を選んでくれた。 彼の事を信じていないわけではない。今までも僕の知らない人達と出掛けることもあった。だけど、今回のことは何故か僕の心に不安を生んだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |