逆転(BL)
雑音の合間に(ミツナル)
超高層マンションの一室で2人は向き合っていた。
しっとりとした艶やかなムードではなく、親権を巡って対立する仮面夫婦のような雰囲気だ。
2人の間の机には、間接照明の光を受けて煌めく1つの指輪。
「…受け取らないよ、絶対」
「理由を言ってもらおう、それ相応のな」
「受け取る理由がない」
「受け取らない理由もない」
「異議あり、受け取ったところでどうするんだ」
いつもの白熱した論争ではなく、淡々として冷えきった言葉が交わされていた。…まるで何かを抑え込むかのような。
「異議あり、質問に答えろ。それとも答えたくない理由があるのか?」
「わざわざ御剣の質問に答える義務はない」
「確かに。だが、それは受け取らない理由ではない。質問に答える必要性がないだけだ」
「じゃあ、もういいだろ」
勧められたワインで頭はもう完全に働くのを拒否していた。時計の針はすでに12時をすぎた。
「…そうか」
一息吐いた僕に御剣は悲しいようななんとも言えない表情をみせた。
「…あぁ、僕は絶対に受け取らないからな」
それだけ言った僕は、脱ぎ捨ててあった上着を拾い上げた。
ただただ逃げたかった。いたたまれない思いを忘れてしまいたかった。すべて夢だと思い込まなければ。
…壊れてしまう。
穏やかに笑いあっていた記憶も御剣の笑みも。
何よりも僕が
自分の手で壊してしまうことが許せなかった。
「…邪魔して悪かったな、楽しかったよ」
ひやりとした上着を羽織り、扉に手をかけた。
「…成歩堂、好きだ」
何が起きた。
何故扉が開かない。
この手は誰のだ。
どうして体が動かない。
この背中の温もりはなんだ。
どうして、どうして、
僕は泣いているんだ。
わかりたくない、わからない、わからないよ。
なんでお前が僕に笑いかけてるかなんて。
泣き声の合間に、愛を伝える言葉が途切れ途切れに聞こえた。
『雑音の合間に』
(吐き出したワインが自分の血に見えた)
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