逆転(BL)
悪巧み完了(ミツナル)
思いを抱いては握り潰していた。
きっとそれは幼心からの、憧れや羨望だと思っていた。
(違う、違うんだっ…)
それが恋心であると認めたくなかった。邪で汚れた思いを抱いてると、自覚したくなかった。
けれど、テレビや新聞で名前を見かける度に、嘆きのような疑問と覚えのない悲しみは、容赦なく身を引き裂いた。
すべてを知るために、決して、思いを伝えてはならない、と決意して、素知らぬように法廷に立った。
すべては、孤独な依頼人を護るために。
(…結局は自分のためだった)
孤独な思いをしたからこそ、孤独な思いをする人の味方に弁護士となった。…それは建前でしかなかったと彼は気付いた。
弁護士という肩書きで、孤独な人の味方という善人面で、さも人助けをする仏のような振る舞いをした。
「…ハァ」
いつもの彼女は用事だとかで、事務所は少し広く、物寂しく感じた。
「…成歩堂?」
「うわぁっ!…み、御剣お、驚かすなよっ!」
「ム、し、失礼した。…少し悩んでいるように見えたものだから、」
「…あ、アハハ、ハハ」
「わ、私で良ければ相談にのる、が…?」
──…
「っていうかなり鬱々とした内容なんだけど…」
ある程度の内容は伏せて淡々と話した。御剣は始終、いつもの考える姿でいた。
「善人であろうとする必要はない、人は皆何かしら闇ようなものを抱えている。…深く悩むことではないのだろうか」
「…そうか」
「…らしくないな、成歩堂。いつものように、図々しくふてぶてしく振る舞えばいいものを。…私に何か出来ることがあれば手伝うのだが…」
「あ、あれは、法廷だからで!」
気付いてほしい、でも気付いてほしくない。知ってほしい、でも知りたくない。御剣のことが好きだと伝えたい、でも嫌われたくない。
このやり場ない気持ちをどうにかしたい。
「…じゃあもし、僕がお前のことが好きだと言ったら…」
残りの言葉は誰かの口に吸い込まれた。
『悪巧み完了』
(すべてを投げ出して愛を伝えたら、)
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