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Sakura tree

『男なんて嫌い』だという言葉の意味は恐らく、そうやって怜をからかう男子に対するものだろう。
そして同時に怜は、一時的にある特定の男子が気になってしまった事で悩んでいるのではと一ノ瀬は考えていた。
もしかしたらうまくいくんじゃないかと思ったりしたが、そうはいかなかった。

結局怜は男に傷つけられ、友達と恋を同時に失い、本当に男が嫌いになったかもしれないと思った。
けれどもこの時期が過ぎればまた女の子に目が向くようになると、一ノ瀬は問題を軽く考えていた。

「確かに恋愛でも男に苦手意識はあるだろうけど、人間関係でも男にはいい思い出は無いだろうなって。だから複合的に男には抵抗があるんだと思うよ」

本人と話したわけじゃなくこれはあくまで一ノ瀬の主観であって、それも中学時代の事だからと断ったが、真弓は気にしないわけにはいかない。
高校時代に女の子の友達が居たと聞いた事があるが、怜から家族以外の男の話を聞いた覚えがない。
友達も、恋愛も。
例の“響生”ぐらいだ。

空気を変えたのは、男性とは断言し難い怜の友人の声だった。

「あら、先生ー。こんばんはー!」

髪をくるくる巻いた、もう一人のオネエだ。
マキちゃんは同僚の女性を一人連れていた。

「ここで働いてた私の友達の中学時代の先生と、その友達の彼氏」

友達もオネエだとか、真弓はゲイだとかはあえて言わない。
友達が女の子で、真弓が異性愛者だと思ってるんだからそう思わせておけばいい。
無闇に喋って相手が不快に感じれば、お互いに気分が悪くなるだけだ。

それが悪かったとは言わないが、同僚のレイコが真弓に興味を示したようで真弓は困った。
マキちゃんが友達の彼氏と紹介してわかっているし、飲みの席での軽いリップサービスだろうけれど、怜を思うと申し訳なくなるのだ。
たった今まで怜の男性への不信感や苦手意識について話していて、自分は女性におだてられてへらへらするなんて。
それに怜は今仕事で海外だ。

ノリが悪いと思われても、真弓は乗らずにやんわりとかわした。
それで終わると一ノ瀬もマキちゃんも皆が思ったのだが、意外にレイコは食い下がった。

盛り上げようとしてやってくれているのか。
それにしては真弓ばかりだし、目付きや声色に媚びた色が滲む。
知らん振りでとぼけてかわし、それを避ける。
しかし内心では大変焦っていた。
恋人が海外に行って居ない間に浮気を疑われるような事になったら最悪だ!と。
ここで変な誤解を生んだら怜を傷付けてしまう。





スタジオでの撮影の後は街中でも撮影し、三日目は湊町へ移動した。
怜はこの町に来るとわかってからずっと楽しみで、行きたい場所があった。
最終日にやっと時間ができて、帰る前にそこへ行く事ができた。

二階建ての古い家。
高い塀に囲まれた庭。
そこには薔薇が咲いていた。
画家はこの薔薇を見てあの絵を描いたのかもしれないと思うと、感動的だった。
『飛翔する薔薇』の画家の生家に来るかとができるなんて、まさか思っていなかった。

薔薇はこの画家の絵画に何度も登場するモチーフだ。
近くの店では薔薇のモチーフの土産物が売っていて、怜は薔薇のカメオのブローチを。
先生にはそのネクタイピンを買った。

「恋人に?」

カメラマンはゆっくりと英語で喋ってくれるので、怜にも単語が聞き取れた。
怜は照れてスタッフらの目を気にし、しぃっと人差し指を立てた。
すると彼はくすっと笑って、ジェスチャーを交えて教えてくれた。

「僕にも、男の恋人が居るよ」

彼の空気が一気に和らぎ、とても幸せに満ちて見えた。
マネージャー達はゲイだからってだけで開放的な先入観を持っていたが、何て失礼な話だ。
実際には彼の様に。そして自分の様に、異性愛者と同じ普通の生活を送っているのだ。

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あきゅろす。
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