Sakura tree 3 出発を見送る事ができないので、真弓は前の晩に電話をした。 「気をつけて」 『はい。行ってきます』 活躍するほどに遠くなる。 けれど真弓は、そうやって活躍する怜が安らげる存在であろうと思う。 真弓を飲みに誘ったのは一ノ瀬だった。 しかも怜が働いていた店で、一ノ瀬は怜との事を面白半分で聞いた。 「いいじゃないですか、別に。それを聞くために誘ったんですか?」 「アイツ海外行ってんだって?寂しいと思って誘ってやったんじゃねーか。少しは面白い話題提供しろよ」 別に誘ってほしかったわけでもないが、気にしてくれていると前向きにとっておこう。 そう自分を納得させた。 「はぁ〜!?そんで終わりって、お前……。今時中学生でもやる事やってるぞ!」 怜がフランスに行く前にデートした事を言ったのだが、部屋に来ても何も無かったと知るとこれだ。 「人と比べるのはやめてください!僕達には僕達のペースがあるんですから!早ければいいってものでもありません!」 それに怜は恋愛に抵抗があって、臆病なところがあるから、無理に先に進んで恐がらせるのは真弓の本望ではない。 「んー……、まあなぁー。怜だもんなー。しゃーないか」 苦笑して一ノ瀬が気になる言い方をしたのを流せなくて、真弓は声を抑えて聞いていた。 「何かあるんですか?」 「いや。ハッキリ聞いたわけじゃないし、中学ん時の事だからさ。今はどうか」 「言ってください」 怜が恋愛に対してまだ抵抗を感じるようなことがあるなら、真弓も他人事ではない。 一ノ瀬は短く息を吐いた。 「色恋っていうより、ただの人間関係として聞けよ?紛らわしいから」 一ノ瀬は当時、怜が強がって隠そうとしている本当の性質に気付いていた。 ツンとしてとげとげしく、誰とも馴れ合わない。 そうやって虚勢を張って、怜は本来の自分を隠していた。 一ノ瀬がそれに気付いたのはたまたまだった。 たまたま担任になって、他の先生より年が近くて話しやすかったんだと思う。 一匹狼だった怜に懲りずにしつこく話しかけ、何となく友達らしい関係を勝ち得てしまったのが響生だった。 怜の様子がおかしい時は響生をつかまえて探ってみたが、何が原因かわかった事はなかった。 ただ怜はよく何かから逃げてきて一ノ瀬のそばに居たから、拗ねたり落ち込んだり、めそめそと泣く姿を見ていた。 怜が虚勢を張っているのを、そこで一ノ瀬は知った。 その性質が実はとても穏やかで、優しいものだという事を。 性別がどうこうというより、彼自身の感性や性質が“雄々しい”ものではないのだと察した。 それが女装をするまでと知ったのは再会してからだが。 とにかく彼の苦悩はそこら辺に起因するのだろうと思っていた。 同性愛やゲイという言葉がよぎったのは少したってからだ。 それは繊細な問題だし、思春期を過ぎてしまえば一緒に過ぎ去ってしまうような、一時的なものの可能性が大きいと判断したから、敢えて踏み込まずに付き合っていた。 しかしある日、怜は言った。 『男なんて嫌い』 一ノ瀬は瞬間的に、どういう意味で言ったのだろうと考えた。 性質が女の子寄りだから、男というものを異質に感じ反発が生まれるのか。 それとも綺麗な顔をしてる怜を男子生徒がからかったり、ちょっかいをだしたりして鬱陶しいと思ったのか。 怜は女子生徒からモテたし、女子から悪く言われる事は無かった。 だから後者の意味を意識しつつ、冗談混じりに返した。 『お前女子にモテるからな。そりゃあ男に恨まれるだろうよ』 『俺は別にモテたいと思ってない』 『うわ、嫌味〜。やっぱモテる男の言う事は違うな!』 [*前へ][次へ#] [戻る] |