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Sakura tree

怜はとても嬉しかったけれど、恥ずかしくて真弓の背にちょこっと隠れた。
店員の目が気になってしまって、顔もうつむきがちになる。

「怜さん?」

こういう場所は初めてだし、自分よりも先生が嫌な思いをするんじゃないかと思うと申し訳なくなる。
曇った表情で悟った真弓は、優しく寄り添ってそっと背を撫でた。

「大丈夫。平気です」

その手に勇気を貰い、覚悟を決めた。
なのに、入るなり愛想よく挨拶する店員にびくりとする。
店の前でまごついていたのを見られていたかもしれないと余計な事を考えて、勝手に怯え出す。
店員が近づくと先生にぴったりとくっつき、先生の服の袖をつまんだ。

「何かお探しですか?」
「ペアリングを」

えっと驚いて顔を上げる。
最早何のドキドキかわからない動悸で、言葉なんて出てこない。
服をつまんでいる事を思い出し、やっとの思いでちょんちょんと引っ張る。

「あ、あの…っ。いいの……?」

恋人同士がペアリングをするのは恐らく自然な事なのだろう。
けれど自分達は同性同士で、こんな堂々とという事に戸惑いを感じていた。
真弓は言葉の意味を悟り、迷わずに頷いた。

「僕達に恥じる事は無いですから」

ハッとした。
そうだ。
世間に知られてはいけないからって、後ろめたく思う必要は無い。
二人の間に、何も恥じる事は無いのだ。

「はい…!」


チェーンを買おうと言ったのは先生だった。
指にしていればそれがどんな意味か探られてしまう。
恥ずべき事ではないけれど、隠さねばならない。

接客が仕事だからか、店員は動揺も不快感も見せず終始にこやかだった。
お蔭で怜はリングを選ぶ時に気にせず済んだし、真弓と笑い合う余裕もできた。
そして帰り際。
「ありがとうございました」と共に告げられた言葉で、二人は顔を見合せた。
それはどんな意味だろうか、と。
怜を知っていたのかもしれないし、純粋に二人に対してだったのかもしれない。
けれどどっちであれ、二人は素直に嬉しかった。
そこに温かな理解が感じられたから。

「がんばってくださいね」

自然に笑えた。

「ありがとうございます」





半個室の店でご飯を食べて、真弓は部屋に誘った。
少しは意識して、警戒してくれるかと想像したのに、怜の反応はその上を行っていた。

無邪気に喜ぶ笑顔。
信用されている証だと思えば嬉しいけれど、少しは意識してもらいたいと思うのは贅沢だろうか。
複雑な気持ちを抱えつつ。信用してくれている怜を裏切るわけにはいかないので、やっぱり今日も至って健全な時間を過ごすのだ。

手を繋いだだけで固まってしまう人だから。
恐がらせたくない。





「指輪、フランスに行くのに間に合います」

撮影ではできないけれど、持ってるだけで寂しさが違う。
それともう一つ。

「あと、お願いがあるんです」
「お願い?何ですか」

甘い笑みに照れる。

「あの、あの……。一緒に写真撮ってください…!」
「写真?」

真弓はきょとんとしたが、怜には大事だ。

「二人の、写真……。持ってないから。フランスにも持ってきたいんです」

膝の上でもじもじと細い指を絡ませ、ちらちらと窺う怜を真弓は愛しく思った。

「勿論。撮りましょう」


海外の雑誌と、日本で発売する写真集の撮影のためフランスに数日滞在する。
それと写真集の発売イベントで流すメイキング映像も撮る予定だ。

怜はその日に撮った写真と、ペアリングを持っていく事ができた。

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