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Sakura tree

怜さんは頑張ってるんだから、ちゃんと見なければならない。と、妙な使命感を抱いた真弓は、怜から載る雑誌を教えてもらって全部チェックしている。
雑誌を見てもそこに居るのはRekiであって、怜に会えるわけではないのに、見ずにはいられない。
しかしそれをファイリングまでしているのは内緒だ。

発売日になると待ちきれずに、朝買ってきた雑誌を保健室ですぐに見る。
そしてこっそりファイリングの作業に入るのだが、真弓は怜専用のファイルもばっちり持ち歩いている。
そこまでしている事を本人に知られた場合、ストーカーみたいで気味悪いと思われたら……と心配したが、学校の先生達や生徒にバレる事は気にしていない。
王子の事で何回か相談にのった事もあるし、ファンとして応援しているから。と、その時は言おうと思っている。
ファンと言ってもファイリングまではさすがにやり過ぎでは?と思われたって関係ない。
それを恥と思ったら、怜への気持ちはどうなるのか。

真弓は自身の性的指向を、決して恥ずべきものとはしていない。
差別や偏見などで、隠さねば生きにくいという事はあっても、それ自体を後ろめたくは思っていない。

もし怜さんとお付き合い出来たら……という夢みたいな想像をしても、怜の仕事上絶対に隠さねばならないが、真弓の心境としては堂々とデートをしたいと思ってるし、その時は是非ご両親にもご挨拶に行きたいと思っている。
想像は想像に過ぎず、結局叶わぬ夢なのだが、叶わないと思っても、欲しいものは欲しい。
高嶺の花が芸能人になり、更に遠くなっても、諦める事など考えられない。
愚かだと言われても、やっぱり恋い焦がれる。


ファイリングされた鋭い目付きのRekiを眺めながら、真弓は溜息をついた。
笑ったら可愛いのに、どうやらRekiは笑わないクールなキャラらしい。

『クールなReki君☆初登場!』

その小さなコメントで胸が痛む。
その時いきなり保健室のドアが開いて焦った真弓は、急いでファイルを閉じると机の引き出しにしまった。

「あ、王子君……」

真弓は少しホッとして、イスに座る王子に向かい合った。

「どう?最近は」
「昨日、高校生のお兄ちゃんが、家に友達を連れてきたんです」
「へぇ」

何でもない世間話でも、真弓はこうして王子の変化を見て気にかけている。

「それが、怜ちゃんに会いたかったんだって」
「えっ?」
「だから怜ちゃん昨日はずっと男の子だったの。朝からモデルのお仕事だったから」

家でも頑張らねばならないのか。と、真弓は可哀想になった。

「それで、モデルのお仕事が忙しくなるから、夜のお仕事は減らすんだって」
「そうですか……。それは寂しくなりますね」

王子は、悲しげに笑う真弓をじっと見上げた。
怜が言っていたのと同じく、寂しいと言ったから、やっぱり先生は怜ちゃんを理解してくれる人なんだと改めて確信した。

「あともう一つ。これを先生にあげようと思って来たんです」
「何?」

王子は携帯を出して、慣れない手つきでゆっくりと操作し始めた。

「茜の携帯を貸してもらって、写真を撮ったの。はい」
「え……!」

真弓は動揺して、思わず目を泳がせた。

「先生から貰ったくまさん、怜ちゃんが大事にしてるよって教えたかったから!」

王子はキラキラと輝く笑顔で見せたが、真弓が戸惑うのを見て表情を曇らせた。

「……どうしたの?」
「あ……いや……。よかった。怜さんが大事にしてくれていて」

王子はじっと、探る様な目で真弓を見た。
真弓はそれを無視せず、きちんと答える事にした。

「違うんですよ。その……写真がほら……隠し撮りみたいだし、ね?見ちゃいけないような気がして……」
「やっぱり内緒じゃダメだったのかな?茜は大丈夫って言ったのに」
「あ、うん……まぁ……」

真弓から貰ったテディベアは、怜と一緒にベッドで寝ている。
白金に輝く長い髪がシーツに散らばり、白い腕がテディベアに絡まる。
テディベアの口許に寄せられた艶やかな口唇は薄く開いて、画面越しでも寝息を感じられそうだ。

「だけど貰ってくれるよね?茜が、先生に貰ってくれるまで絶対帰ってくるな!って……」
「……はい」
「よかった!」

罪悪感はあるが、真弓は純粋に嬉しかった。
Rekiではなく、本当の怜の顔がここにある。

「王子君。ありがとう。嬉しいですよ」

王子の顔が、またパッと明るくなった。

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