Sakura tree
2
話を聞いたママは、怜の分まで一緒に飲み物とおやつを出してウキウキと楽しそうに笑った。
「ごゆっくり」
またきっと面白がってるんだろうな、と半ば呆れながら、怜はソファーに座った。
皐と友人らはソファーに座らず、怜を観察しやすいようになのか、テーブルの向かいに揃って座っている。
それをいいことに王子は怜にべったりだ。
「マドレーヌだって。みんなも食べて」
王子に向けた微笑のまま、緊張している友人達にもすすめる。
彼らは頷くと、ぎこちない動きで食べ始めた。
「おいしいねー?」
「うんっ」
にこにこと幸せそうに王子と微笑み合う怜が、ちょっとオネエが漏れてないかとドキドキした皐だが、友人達は何も疑問に思っていない。
王子に合わせているのだと思っていたし、そんな怜を可愛いとすら感じていた。
王子が食べこぼしているのを見ると、怜は何も言わずに丁寧に拾ってやったが、特に叱ることも注意することもせず、ただ穏やかに微笑を浮かべるだけだった。
王子がマドレーヌを頬張って口をもごもごさせれば、くすっと笑ってジュースを差し出す。
線が細くて綺麗で、大人の男性なのに可愛らしくもある。
どこか品があり、物腰が優しい。
それでも思い込みのせいなのか『かっこいいお兄さん』は揺るがず、友人達は憧れとして見惚れた。
しかしさっきまで優しいお兄さんだった怜だが、悟が顔を出した途端にガラリと纏う空気を変えた。
「悟兄!居たんだ」
悟が皐の友人らに軽く挨拶している間、怜はお預けをくらったペットの様に待ちきれない様子で目を輝かせていた。
友人達の視線がチラチラとそちらに向かっているのを、悟だけじゃなく皐も見ている。
「それで?」
やっと悟が見てくれると、怜は照れ臭そうに笑いながら甘えた声を出す。
「雑誌を見てくれた人がね?広告に使いたい、って!まだちゃんと決まったわけじゃないんだけど、有名なブランドなんだって!」
誰もが褒めてもらいたいんだろうとわかる。
だから悟も意地悪はせず、素直にそれを与えてやる。
「すごいじゃないか。まだ始めたばかりなのに。大きなチャンスだ」
「うん」
「だけど、店の方はどうするんだ?このまま忙しくなってくると大変だろう。日数を減らしてもらう事は出来ないのか?」
悟が怜の頬に触れると、怜は甘えてそれにすり寄った。
「うん……。寂しいけど、仕方ないね。でもまだ辞めなくていいでしょ?」
「ああ」
仲の良さを通り越した、普通の兄弟では考えられないほどの絆や愛情がここにある。
「皆の前でイチャイチャすんのやめてよね!本っ当皆して怜ちゃんにデレデレなんだから!これだから人呼ぶの嫌だったんだよ!」
これも、皐が家に人を呼びたくない理由の一つだ。
愛情を表すのは何ら悪い事じゃない。恥ずかしい事ではないと教えられ、そうしてきたから、人前でも躊躇が無い。
友人の強張った顔を想像し、親しい友人を失う覚悟もした皐だったが、そうはならなかった。
「お前んち、いつもこうなの……?」
声は戸惑っているが、兄達よりも完全に友人達の方が恥ずかしがっている。
「大体皆こうだね。親がそういう教育方針だから」
友人を失わずに済んだものの、赤面してそわそわしている面々に逆に皐が愕然とした。
何故なのか。
そりゃあ怜は綺麗でかっこいいと素直に思ってるし、自慢の兄だとも思っている。
しかしストレートなはずの男子高校生を、こうも盲目なまでに魅了するものかと疑問がわく。
兄弟だから理解が出来ないのか、友人達がおかしいのか皐はわからなくなった。
悟が居なくなると甘える弟の顔は引っ込み、怜はまた王子のかっこいいお兄さんになる。
皐が中に入らなくとも、友人達は興奮して怜にあれこれ質問しだした。
それが次第に気に食わなくなってきた皐は、嫉妬してまた怜にチクリと意地悪をしてやる。
「皆に怜ちゃんの部屋見せてあげれば?」
友人達はその気になって騒ぎだすが、怜はとんでもない!と狼狽える。
「待っ…!ダメ!ダメダメ、絶対ダメ!こら皐!余計な事言うんじゃない!」
部屋にはドレッサーがあるし、そこにはメイク道具やらもろもろあってはマズイ物が沢山。
ベッドには大きなテディベアもあるし、クローゼットを開ければ一目で女装しているのがバレる。
開けられなくたってそこら辺に服やバックが転がっているのだから、一発でバレる。
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