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Sakura tree

「じゃあ、怜ちゃん……。またね」

校門が近付いて、これで怜ちゃんが解放されると思ったら皐は安堵した。
影のある微笑を浮かべた怜が無理しているように見えて、何を言いたいかもわからないまま名前を呼んでいた。
口を開いても慰めの一つ出てこない。

「あーれぇ!?お前、もしかして……怜かぁ!?」

どきりと動悸が打ち、皐がぎこちなく振り返ると、そこには担任の一ノ瀬将志が居た。

「マサちゃん…!」
「久し振りだなー。元気にしてたのか?背ぇでかくなったなぁ!」

目を丸くして、きょろきょろと二人の顔を行き来する。

「え!?先生と怜ちゃん、知り合いなの!?」

こちらは相当驚いているというのに、二人は顔を見合せてから、あっさりと頷いた。

「何、お前、言ってなかったのか?」
「うん。だって俺も今マサちゃんがここに居るって知ったし」

親密な空気から、まさか二人は“そういった関係”だったのか!?と皐は頭を抱えたくなった。
怜ちゃんにそういう人が居た事は聞いた事がないし、先生もそっち側の人だったなんて事になれば衝撃だ。

「俺は怜が中学ん時にそこに居たの。まぁそん時も真面目な方じゃあなかったけどよ……お前、派手な頭してんなぁ。それじゃ余計目立つだろ」
「俺が人に見られようと思ってやってると思う?これが自分らしいと思うからやってんのっ」
「あぁ、そうだな。お前はそんなヤツだ。真面目にイスに座ってんのが自分らしくないと思ったら迷わず教室を飛び出すヤツだよ」

次々に知らない情報が二人の口から出てくる。
怜ちゃんがいつか聞かせてくれると言った約束は、二人だけの秘密が出来たみたいで嬉しかったのに、正にその当時の怜ちゃんを知る人が現れて一人だけ蚊帳の外に置かれているのが悔しい。

「怜ちゃん。居るだけで目立つんだから、こんな所で堂々と世間話やめてよ。もう帰ったら?」

だからって意地悪な言葉をぶつけてしまっては、本当にただ我儘な子供だと思う。
そのバチが当たったのか、そうだな。と頷いた先生が寄ってけ。と中に招き入れ、怜ちゃんも喜んでそれに乗っている。

「ウソォ!?」

先生は、立ち止まって野次馬と化した生徒達を教室に行けと促し、怜ちゃんは笑顔で手を振った。

「じゃあな、皐。ちょっと寄ってくわ」

本当にこの人は無理して男らしく振る舞っているのかと思うほど自然に出来ているから、やはり根は男なんだと確信した。

怜が背を向けて歩き出したそばから集まってきた友人達に質問攻めにされながら、皐は変質者なんてさっさと捕まればいい、と呪った。





職員室の一角。パーティションで区切られた簡易な応接室の様なスペースに案内され、出された缶のお茶を飲む。

「それにしてもその髪、随分伸ばしたな……。ウィッグとかエクステっていうやつか?」
「ううん。地毛。高校から伸ばし始めたの」
「はぁーん……。ま、お前らしいよ。似合ってるしな」

教師としては注意したいところだが、意思を尊重してぐっと飲み込んだといった顔だ。

今何してんだ、と仕事を聞かれてさらりと店まで教えてしまってから、己の失態に嫌な汗が滲む。
店に遊びに行くわ。というのは単なる社交辞令であってほしいと願う。
しかし次の質問には、嫌な汗どころか、サッと血が引いていく気がした。

「響生とは会ってんのか?」
「……いや…っ。卒業してから会ってないから……」
「そうか。誰も眼中に無いって感じだったけど、響生とだけは仲が良かったのになぁ」

好きで他人を遠ざけていたわけじゃない。
響生と仲が良かったのは、響生だけが嫌悪感を抱かずに、真っ直ぐに自分を見てくれたからだ。
懲りずにそれを何度も本当だと信じさせようとしてくれたからだ。
そんな響生だったから信じて、信じすぎて、好きになってしまった事も受け入れてもらえると盲信して。
結局嫌悪感を露にバッサリと、友情すら断ち切られてしまった。

今は嫌な思い出でしかない。


職員室を出ると、まだ居たの?と嫌な顔をして皐が立っていた。
気になってわざわざ様子を見に来るから、背後に余計な観客まで連れてきている。
遠巻きに見ているそちらに目をやっただけでピタリと静まり、視線を戻すと女の子達が騒いだ。

「も、帰るよ」
「怜ちゃん……?」
「ん?」

また、何か言いたげな顔をしている。
言いづらいのか、ただ言葉が見つからないのか。
口を開いたけれど、諦めてうつむいてしまった。

マサちゃんはニッと笑って、こそっと職員室に引っ込んだ。

人目があるけど仕方ない。
このまま放っては帰るわけにはいかなかった。

「皐。おいで」

おとなしく従うのは、やっぱり幼かった頃に戻ったみたいで可笑しかった。
ふっと笑うと、何故笑ったのか察して皐はむくれた。

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あきゅろす。
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