番外・過去拍手ほか書庫
6
いつまでも貴公子発見の話が聞こえてこない事に複雑な思いを抱いていた。
あの靴は自分の足に合わせてしつらえた様にぴったりで、不思議に思った事を覚えている。
やって来るかもしれない。
そんな不安とも期待とも知れない思いが遂に、現実のものとなって眼前に突き付けられる。
「まぁ!王子様!」
継母は落ち着かない様子で一行を迎え、俺には間違っても姿を現さないようにとキツく言った。
そんな事、言われなくたってわかっている。
自分は「灰かぶり」で、とてもあの方の目に触れられるような人間じゃない。
立場は痛いほどわかっているし、こんな自分を見られたくもない。
万が一気付かれでもすれば、間違いなく嫌われるに決まっているのだから。
こっそりと息を潜め、伺う。
差し出された靴に誠お兄様が足を入れる。
が、お兄様では爪先が大きく、入らなかった。
次は里久お兄様が。
しかし今度はかかとが入らず、継母はオロオロして何度もお兄様に入らないのかと言った。
「王子様、この家にも貴公子は居なかったようです」
「使用人でも構わない。もう他には居ないのか」
王子に問われ口ごもった継母は更に問い詰められ、渋々といった調子で口を開く。
「はい、前妻の子が一人居ることには居ますが」
「ならば早く連れてくるがよい」
「ですが、いつも灰にまみれて薄汚れていて」
「連れてくるようにと言っているのだ。早くその者をここへ」
王子様の御付きの人が言って仕方なく継母は呼びに来た。
冷たい声と目に強張る。
「すぐに参ります」
一人になってから大きく息を吐き出す。
どうしよう、という動揺を抑え込もうと努め、ひとまず顔と手を洗う。
出ていく前に一度深呼吸をして、腹をくくる。
王子様の前へ出ていき礼をして、差し出された靴に足を入れる。
それがぴったり合ったのを見て王子様も皆驚きの声を上げた。
ここまで来てしまったのだから今更迷うことも無い。
片方になってしまった靴を一真さんに返すわけにもいかず、結局ずるずると持っていたもう片方。
両の足揃ったのは舞踏会以来。
立ち上がって前を向く。
と、そこにあったその顔はハッとして、かと思うと泣きそうに微笑んだ。
「貴方は…!ここにいらっしゃったのですね!」
由嘉様はそばまで寄って両手を握り、優しい声色を耳に届ける。
「捜しました。貴方を忘れられはしない」
継母達が怒る声を遠くに感じ、まるでその内容を理解出来ない。
愛しい瞳で真っ直ぐに見つめられている事が幸せで、その温もりが手に触れている事で心臓が煩く鳴る。
「どんな事情がおありなのかと、何が貴方の笑顔を奪うのかとずっと知りたかった」
「あ、の……ごめんなさい」
言えなかった。
嫌われるのが恐くて、黙ったまま逃げた。
「どうか、謝らないで」
思わず涙ぐんでしまい咄嗟にうつむくと、由嘉様はそっと頬に触れた。
「本当は…っ」
涙声でも、視界が濡れても伝えたい。
「本当はずっと、お会いしたか…っ」
ひくりと一つしゃくりあげると同時くらいに、気付けば温かい腕に包まれていた。
けれども、瞬間。はたと現実を思い出す。
目の前の方は、こうして触れている方は王子様なのだ。
「お伝えしたい事があります」
顔を間近で見られながら、さらりと髪に指が絡む。
「貴方を愛してる」
強い想いを乗せた言葉。
「貴方が笑うなら俺は幸せで、そうやって貴方の笑顔を、貴方のことをずっとそばで守って生きたい」
これ以上無い幸せが目の前に、現実にある。
「俺と共に生きて下さい」
永遠の誓いを立てたい。
もう離れないでずっとそばに。
けれどもそれで由嘉様は、王子様である彼は幸せを得られるのだろうか。
本当に、自分なんかと一緒で。
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