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短篇
13
「お姫様?」

急に落ち着きなく飛び交いはじめ、動揺したように囁きが重なる。

お城のお姫様?
リリアンって言った?
リリアンって言った。
それじゃあ、そうなの?
そうなのかも。

「あら。以前お会いしたことがあったかしら」

まさか相手が自分を知っているとは思わず、リリィは慌てて謝った。
が、そうではないらしい。

ううん、はじめまして。
聞いたの。
知ってるの。

「美しいお姫様、リリィ」
「そうだったの。それじゃあ、エメルは知ってる?緑色の、小さな竜なのだけど」

大きさを手で示し、リリィが使役していたことを説明する。
と、やっぱり。そうだ。でも。と、囁く。

「聞いたことがあるのね?今何処に居るか知らないかしら?」

あそこかな。
そうかなぁ?
でも、竜が居るよ。
竜だけど。ちがうかもよ?

「違っててもいいの。行ってみて、お話を聞いてみたいの」

彼らが教えてくれたのは意外な場所だった。

居るよ。緑の竜だよ。
でもちょっとおっきいよ。
そこにずっといるの。
でもあぶないんだよ。

「ありがとう。とっても親切な方々。お話ができてよかった。楽しかった」

踊るように輝いて、妖精たちはお別れを言った。

さようなら、お姫様。
気をつけて。
美しいリリィ。またね。


妖精たちのおかげで気分が明るくなったリリィは、途中で何度も道をたずねながら宮殿へ向かった。
宮殿は今は美術館になっているらしい。
長い時の間に、王様まで居なくなってしまったようだ。

美術館に入るにもお金が要るだろう。
外から呼んだら出てきてくれるだろうか。
いや、その可能性は低い。と、リリィは思った。
竜はずっと動かないでそこに居るそうだから。

宮殿の近くでまた妖精たちをさがして、伝言を頼めばいい。
それでも出てきてくれるかわからないけれど、エメルかどうかが確認できればいいのだ。

宮殿の立派な庭園はいまだ美しさを保っていた。
ここなら妖精たちがすぐ見つかると期待したが、小さな光が居ても逃げてしまって話ができそうにない。
途方にくれると同時に、疎外感を覚えてさみしい。
泣きそうになって、それを堪えるために彼を呼んだのに、ますます泣きたくなった。

「ひとりごとなの。これはひとりで話してるの」

花の陰からちらりと覗いた小さな光が囁く。
独り言という形をとって話してくれるのかもしれない。

「ウワサで聞いたの。美しいお姫様。きっとそうだわ、美しいもの。ワタシたちとお話できるのだって。だけどだめなの。お話したら聞こえちゃうかも。黒い宝石がいるんだもの」

妖精たちと公園で話したということが、彼らの間でもうウワサされているようだ。

「黒い宝石はおそろしいの。お手伝いしたらだめなのよ。だって、緑の竜は黒い宝石のそばなのだもの」

妖精たちは黒い宝石を恐れているために、近づきたくなくてリリィから逃げていたのだ。

「妖精さんの独り言を盗み聞きしちゃった。だけど不思議。ちょうど知りたいことだったのだもの。おかげでとっても助かった。ありがとう、妖精さん」

リリィに笑顔が戻ると、小さな光は踊るように舞った。

「お姫様。そこで何をしておられるのですか?」

既視感。
まさかと思いつつ、鼓動が早まる。
しかし振り返った先には、緑色の竜は居なかった。
かわりにリリィを見ていたのは、十代前半の少年だ。

「エメル?」

この世界にリリィをお姫様と呼ぶ人はいない。
あるのは皆肉体の無いもの。妖精や精霊ばかりだ。

「お待ちしておりました。よくぞご無事で」

再び会えたのだと、確信できた。

「エメル…!」
「お姫様は眠ってらしたのです。アノ男がお姫様を助けようと現世へ戻しましたが、お姫様は仮死状態になられたままでしたので、ワタクシが安全な場所をご用意いたしました。お目覚めになられる日を、ワタクシはここでずっとお待ちしておりました」

今度こそ死ぬと思ったのだから、神隠しから解放されただけであっさり治ったとは思わない。
思わないが、そこまで考えが至らなかったから、本当に死の淵まで行ったと聞かされると信じられない。

「ワタクシはまだまだ子供ではありますが、一応竜の端くれなのです。あれからずっとお姫様のことを考えて努力してきましたが、お役に立てたと自負しております」

再会できたことに加え、その気持ちが嬉しいことだ。
だから更にその先の結果までをも期待するなんてリリィは考えてもいなかった。

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