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ドラゴン

しーっ!と先生が子供達を静めると今度は興味深げに、または何かを期待する様にきらきらとした目がじっと向けられた。

「こんにちは」

涼やかな声が発せられ、ばらばらに子供達が挨拶をする。
何人かがまた周りの友達と囁き合ったり目配せをした。

「はじめまして。僕は、エスといいます。人を助けるお仕事をしてます」

エスが話す度、肩を寄せ合いくすくす笑い合ったりと小さな波が起きる。

「そしてこの人達は、一緒にお仕事をする仲間で、僕の大事なお友達です」

リュウ達もそれぞれ挨拶し、よろしくお願いします。と揃って頭を下げる。
子供達も同じく大きな声で挨拶した。

「今日は、みなさんのお手伝いをしに来ました。仲良くしてね?」

エスがにっこりと笑い言うと、皆笑顔で手を上げて返事をした。
先生が移動を促した途端、待っていたように一斉にエス達の周りに子供達が集まった。

「すごーい!キレー!」
「髪の毛本物ー?」
「ねぇねぇ!男なのー?」

先生方は失礼になると慌てたが、リュウが構わないと言ってそのままにした。
エスもその方が喜ぶからだ。
エスはくすくすと笑って、しゃがんで髪を触らせた。
それが本物の色だと知ると不思議がって、さらさらと慎重に触れていく。
そして一人がその滑らかな頬を撫でると、次々に触れてきゃあきゃあとはしゃいだ。

「あの……本当にいいんでしょうか……?」

さすがに先生方は不安になるが、それでもリュウは首を振った。

「いいんです。子供達と遊ぶのをすごく楽しみにしてましたから。楽しんでると思いますよ」

子供達にすっかり気に入られたエスは、両手を引っ張られて連れていかれた。


土作りは既にしてあって、作業は子供達がレンガを運ぶところから始まった。
作業中エスは常に楽しそうに笑っていて、疲れた子や飽きた子が居るとすかさず寄っていって話し相手になった。
リュウ達も疲れを見せているというのに、子供達にまで気を配っているエスは涼しげな顔だ。
体力ならリュウの方があるが、楽しいのと、恐らく人前では苦しい顔を見せまいとする気力や聖女としての責任がそうさせるのだろう。

出来た花壇に花を植え水をやる段になると、エスが水をまいて子供達を楽しませた。
先生方は、その光景を聖女様の様だと思った。


今回の報酬は現金ではなく、一緒にランチを食べた事で報酬とした。
エスが満足だと思うのが基準になっているので、現金よりもそれに価値を感じたのだろう。
本当にそれでいいのかと最後に確認した園長に、リュウはそう説明した。

「現金を貰うよりご飯をご馳走になる方が人の温もりを感じられるし、一緒に笑って話しながら食べるのがまたエスは幸せなんですよ」

聖職者然とした、聖女様といわれる立場だからといって、特に清貧を心掛けているつもりはない。
これがエスなのだ。


「楽しかったねぇ」

こんな楽しい仕事でお金を貰うのは申し訳ない。
言った通り、エスは終始楽しそうだった。

「だけど、さすがに疲れたんじゃないのか?」

慣れない子供達の相手をするだけでもリュウ達は疲れたのだ。
けれどエスは平気だと言って首を振るだけだった。

安いホテルを探して歩いている途中、夕飯を買いにパン屋に寄った。
おまけでパンを何個か紙袋に入れてくれて、エスはふわりと顔を綻ばせた。

「ありがとう」

すると店員がエス達に顔を近付けて、外を気にしながらひそひそと囁いた。

「怪しい男がこっち見てるけど、聖女様目当てじゃないんです?」
「あぁ、まだ居ます?」

世間話と何ら変わらぬトーンで、エスは表情を変えずにさらりと言った。
驚いたのはリュウ達の方で、エスが男の存在に気付いていたのだと思っていなかった。

「何だか、好かれちゃったみたいで」

あはは。と笑うのんきさに深刻ではないと感じた店員は、少し気をゆるめつつ心配した。

「気をつけてくださいよ?」
「そうします。パン、どうもありがとう」

その場でエスに「気付いてたのか?」と確認する事もできず、店を出ても念のため警戒してエスのそばを歩くしかなかった。
目立つ男は、堂々と後をつけてきている。

これまでもいくつかの教団が使者を寄越したり、監視されたりなどがあったが、それにしては稚拙過ぎる。


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あきゅろす。
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