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ドラゴン

エスが眠る部屋と仕切り一枚隔てた隣室に、アキアとハルと共にエルも待機していた。
エルはリュウが来るなり心配でエスの様子を聞いた。
そしてこの機会に、エルは前から聞きたかった事をリュウにぶつけた。
改まって。

「リュウさん。よければ、御子さまの幼少時代のお話を聞かせてくれませんか?」

主人に報告する為という目的もあるだろうが、それ以上にエル自身が知りたいという気持ちが感じられた。
能力(ちから)が話題になり、突然注目され、聖女様として知られるようになったエス。
だが、幼い頃のエスはあまり知られていない。

「今からはとても想像できないだろうが、アイツはいつも泣いていた」

エルの顔が辛そうに歪んだ。

「自分が誰で、何処から来たのか。要らないから捨てられてしまったのか。そして力が周囲に知れてからは、青薔薇を弾圧するかの様な批判や中傷が向けられて、だ」

励ましても、慰めても、叱っても。
エスはよくめそめそしていた。

「最初、エスは、自分の力に気づいても隠してた」

けれどリュウに知られると、エスはわんわん泣き出した。
お願いだから捨てないで。嫌わないで。と、すがりついて泣いた。
エスは自分の力が恐くて、人に知られたら気味悪がられると思って黙っていた。
そして自分にこんな力があるから捨てられたのだと思い、バレたら追い出されると思ったのだ。

リュウが住んでいたところは田舎の小さな村で顔見知りばかりだったし、フォールス自体が青薔薇の信者が多いから、エスの存在は好意的に受け入れられた。
だが噂が広がっていくにつれ、エスに対する人々の嫌悪は浮き彫りになっていった。
それだけ、女神信仰に対する弾圧は人々の中に憎悪や嫌悪を植え付けたのだ。

エスの力が何か、最初に教えてくれたのはリュウの祖父だった。
そこから二人で女神ローズや聖女エセル、ガルドの事を調べはじめた。
その中でエスは十字教の神父と出会い、その清心を学んだ。
異教の不気味な子供を匿っているという事は、村人の反発をかった。
神父様はそれでもエスを庇ってくれたが、エスは追い詰められていた。
もともとが純真で、透き通る様な心の持ち主だ。
傷付き、そして諦めかけた。
だからリュウはエスと約束をしたのだ。
いつでも終わらせてやるなんて方便で
、終わりを先のばしにした。

「泣き虫なアイツを知ってるせいか、俺は少し過保護なんだと思う」

そんな事ないと言うように、エルは聞きながら首を振った。

「だけど俺は、やっぱりアイツはまだ、根は泣き虫の子供のままなんだと思う」

素直で、純真なところは昔と変わらないから。

「辛い思いをなさったのに、御子さまはあれほど美しく清らかな心のまま。変わらずにいらっしゃられた」

エルは噛み締めるように、そう独り言ちた。

「強くなったんじゃない。アイツは弱さを隠す術を覚えただけだ」

だから、それを知ってる自分くらいは、エスを支えて守ってやらねばと思うのだ。
エルはリュウの言葉に激しく同意して、更にエスを応援する気持ちを強くした。

物音がしてそちらを見ると、閉めたはずの仕切りからそっと水色が覗いていた。

「皆だけずるい……。楽しそうにお茶飲んで……」

半分だけ顔を出して、寂しがって拗ねている。
子供じゃないんだから……と言いかけて、リュウは踏みとどまった。

「ほんっと、お前は昔から変わらんな」

溜息をつかれ。
またはくすっと笑われて、エスはしゅんと項垂れる。

「手がかかるヤツだ」

新しくカップに紅茶を注ぐ。

「一杯飲んだら寝ろよ?」

麗しの相貌がぱっと輝き、寝巻のローブのままちょこちょこと皆に混じった。

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あきゅろす。
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