ドラゴン 2 二人が息をついた時、眠れる聖女が身動いだ。 息を詰めて見守っていたが、睫毛が揺れて透き通る虹彩が覗く。 水色が二人をとらえると、それは違うものを探した。 「……リュウ、は?みんなは?」 エルは自分よりもまずリュウを探した事を寂しく思ったが、態度には出さず仕事だと答えた。 「起きられますか?フルーツがありますよ。食べられますか?」 こくりと頷いた彼の背を支えて起きるのを手伝う。 座るのが楽なように背中に枕をはさみ、咳が出るとおさまるまでさすった。 「そのままでいいですか?ヨーグルトに混ぜて食べます?」 エルは後者を選んだエスの口にスプーンを運び、もう一つの手が水を運んだ。 「エスさん、お水飲みます?」 「御子さまは今フルーツヨーグルトを食べてるんですっ」 「水も飲みたいですよねー?エスさん」 エルがひとまずエスを害する者ではないとわかり、黒蝶は面白がってエルを煽った。 試すわけではないが、エスを大事に思う気持ちが知れて嬉しかったのだ。 リュウ達が帰ってくると、エルと黒蝶がエスを取り合っているような状態になっていた。 呆れて溜息をついたリュウは、眉間にぎゅっとシワをつくり二人を睨み付けた。 「何やってんだ、アンタら」 困った顔でじっと見守っていたエスは、けほけほと咳き込んだ。 リュウは心配する二人を押し退けて、叱りながらエスの背中を撫でてやった。 「ったく、病人を放っといて何遊んでんだ」 熱と咳き込んだ苦しさで目を潤ませたエスは、リュウが帰ってきた途端お決まりの「大丈夫」を手放した。 「リュウ、熱い」 泣きそうに揺らぐ声。 エルと黒蝶は目を丸くし、アキアとハルでさえ慣れない姿に瞠目した。 しかしリュウは一切動じずに、子供にするようにくしゃっと頭を撫でた。 「何か食ったのか?」 頷いて答える声は弱く、不安や甘えが含まれている。 リュウは額や首筋の汗を拭いてやり、ジュースのカップを渡した。 「絞りたてのジュース。何日かお前の姿が見えないから、町の人達が心配して色々お見舞いをくれたんだ」 エスはそれを両手でそれを受け取ると、飲みながら頷いて話を聞いた。 「風邪を治したら姿を見せて、礼を言わないとな」 「うん」 無防備で、幼い振る舞い。 そして何より、リュウの前では弱音を吐き、甘える。 それが二人の過ごしてきた時間を感じさせた。 「頭痛いのはどうした?少し熱も下がってきたか?」 「痛くない。ちょっと楽になったと思う」 「よし」 こういう二人の関係が、二人の間に何のフィルターも無いのだという事を表している。 子供の頃からの友達だったからつくれる距離。 「だったら今晩は何か食えるな?」 「何があるの?この前のパン屋さんのアレ買ってきた?食べたいって言ったやつ。ねぇねぇ」 「買ってきたって。ったく、食えるようになったらこれだ」 リュウにだけ甘えて我儘を言うのも、出会った頃から変わらない。 能力(ちから)を得て、龍神の御子という荷を背負い、意識が変わっていったのに。 奥の純真な部分は変わらないままだ。 弱さを克服し、強くあろうとしているから、リュウはせめて二人の時くらいは甘えればいいと思う。 逆にエスにはここしかないから、素直に甘やかして、支えてやろうと思うのだ。 「グラタンパンて何だよ、お前」 「いーのっ。ほら見て、中にグラタン入ってるんだよ!?絶対美味しいよ」 「あー、うん。そうだな。こないだ食いっぱぐれたもんな」 適当に合わせつつ、わざと先日エルと行ったレストランで食べるはずだった事を持ち出す。 と、エスはぷぅっと頬をふくらませた。 「あ、意外と根に持ってたんだな。悪かったよ」 結局リュウはそうやって喋りながら、エスが眠るまでついてやった。 [*前へ][次へ#] |