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ドラゴン
第七話 crybaby
雨が降り続けていた。

フードをかぶっても意味をなさないほど、すっかりずぶ濡れになっていた。
飼い猫が帰ってこないと泣く依頼者に何とか笑ってほしくて、聞き込みをしながらあちこち捜して歩き回った。
結局猫は依頼者宅の屋根裏に隠れていたのを見つけたが、エスは一人だけ風邪をひいてしまった。

咳はそれほど酷くなかったが、熱と頭痛で苦しそうにしていた。
水で濡らしたタオルではすぐに温くなってしまって、リュウがずっとそばについてかえてやった。
買ってきたりんごやオレンジを剥いて、小さめに刻んで食べさせたり。
汗をかいた体を拭いてやったりと、つきっきりで看病してやった。

何処で聞きつけてきたのかと思うまでもなく、色々買い込んだエルが突然やってきたのはその二日後だった。
いつも長々と御子さまを賛美するのに、さすがにこの時ばかりはベッドの傍らでおとなしく見守っていた。

「御子さまは、看病するくらい許してくださるでしょう?」

エルはすがる様にリュウに尋ねた。

「悪いが、今日は俺達はこの後仕事がある。むしろ頼まれてくれると助かる」
「はい、是非…!」


買ってきた氷枕をつくって頭の下に敷き、額の汗を拭く。
辛そうな寝顔を見つめながら、傍らで考え事をしていたその背中に不意に声がかかる。

「こんにちは」

長い黒髪に、黒衣。
エルは咄嗟にうまく笑顔をつくれなかった。
そんなエルに、黒蝶は失礼を承知でストレートにぶつけた。

「私は情報屋もやってまして。貴方の事も調べさせてもらいました」

迷惑がかからないように、これは独断だときちんと断って続きを話す。

「念のため、ね」

エルは表情を変えず、落ち着いて聞いた。

「その髪の色は、ガルドにしかないそうですね。染めても出ない色だそうで」

青い薔薇があり得ないと言われるように、ガルド特有の青系の再現は難しい。
紫は明るくなるほどに。
藤色のエルはリュウの濃い紫よりも。
そして藤色より青。青より水色、という順で難しくなると共に、ガルドでは神聖とされる。
水色が最も神聖なのは、光に輝く聖なる石・ガルドストーンと同じ色だからだ。

「ガルドの方がこちらで少ないのは、エルダイムと国交が無いからだと思ってましたが、どうやら別の理由もあるようですね」
「大国はかの“異国”に侮蔑や憎悪、驚異、恐怖を感じている。ですがその“敵国”はどの国も見ていない。目は内へ向いている。そして天へ」

黒蝶が向かう答えから逸れない、むしろ後押しする言葉だった。

「そう。こちらが拒んでるんじゃない。彼らは神国ガルドの民。神を愛し、国を愛し、国民を愛してる。だからわざわざ外へ出ていくという意識がそもそも薄いんです。そして人々の結束がとても堅い」

肯定するように、エルは初めて笑みを見せた。
同国民を裏切らないのがガルド人の誇りでもある。

「よかった。疑いは晴れましたか?」

聖女様という立場である前に、同国民のエスを裏切る事はしない。
できない国民性、と言ってもいい。
黒蝶は晴れやかな表情を見せ、暗に肯定した。

「でもわからないのが、貴方の目的と主人の正体。つまりすべてですね。まさかこんなに掴めないとは、驚きましたよ」

正体が掴めないあたりもガルドらしい。
しかしエスに害をなす者ではないという事が唯一の収穫だ。

「まだその時ではありません。主人が正体を明かす時は主人が決めます。それに、御子さまに出来る限りで尽くすのは既に誓ってますから。嘘だなんて言いませんよ」

嘘を言っているようには聞こえない。

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あきゅろす。
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