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Desert Oasis Vampire

淡い疑いが、恐ろしい現実へと変わる。
グレンはリサの顔色を見て知っていると判断し、続けた。

「その少女は、狩りを楽しむようにして俺をつけ狙う悪魔だ。じわじわと追い込んで、仕留める時を待っている」

リサは震える手で口を押さえ、その名前を呟いた。
え?と、ローザが聞き返す。

「知ってるの?」

まさか。と、やっぱり。という思いが交錯する。
今度ははっきり告げる。

「クレア」

注がれる視線を受け、リサは逃げずに答えた。

「私が休学中に転校してきた子で……友達です」

たまたまグレンとお近づきになれたリサの学校に現れたのは、果たして偶然か。
意図があっての事だと誰もがわかった。
そして悪魔が口を開く。

「こうなる事は計算してたはずだ。学校でグレンを襲った時から、クレアに繋がるのは時間の問題だった」

何故、姿を見せたのか。
悪魔だとバレても構わなかったのだとしか思えない。

「繋げるのはお前だ。そしてそれは同時に、お前の側に悪魔が居るとグレンに知らせる事にもなる」

細長い瞳に赤い光彩。
悪魔に見詰められ、リサはその恐れを言葉にされた。

「お前は人質だ」

リサは恐怖の色を浮かべグレンを見た。

「そんな……」

利用され殺されるかもしれないという恐怖。
が、口をついて出たのは謝罪だった。

「ごめんなさい!私が…!私が余計な事をしなければ!グレン様に近付かなければ余計な迷惑をかけなかったのに…!」

ローザとフォードが、取り乱すリサを落ち着かせようと名を呼んだ。

「どうしよう…っ。私のせいでグレン様に何かあったら…!」

崩れ落ちて泣き出すリサの背を、白く細い指がそっと撫でた。

「リサ」

とても顔を上げられないリサに、グレンは穏やかに語りかけた。

「君はただ、君自身の気持ちに従っただけだろう?何も自分を責める事は無い」

しゃくり上げながら、リサはふるふると首を振った。

「俺は君の素直で正直なところを尊敬しているし、助けられてるよ。だからどうか、それを責めないで。悔やまないでほしい。君をこんな事に巻き込んでしまって、謝るのはむしろ俺の方だ」

そんなこと無いと言おうと顔を上げて、リサはその機会を逸した。
悲しげに眉を寄せた相貌があまりに、つらく苦しそうだったから。

「すまない。君に罪は無いのに……」
「グレンにだって無いじゃない」

ローザは悪魔への怒りを込めて言った。

「誰にだって、呪われていい理由なんて無い。悪魔なんて理不尽なものよ」
「そうですね。気をしっかり持って、胸を張りましょう。気持ちで負けてはいけません。つけこむ隙を与えなければいいんです」

フォードの言葉は力強く、一同に安心感と勇気を与えた。

「そこで一つ提案だ。アイラに、そのクレアの正体を探ってもらいたい」

アイラは何でもやるという勢いで喜んで頷いた。

「もちろん、グレンの為なら。だけど無闇に近づくのは避けたい。向こうに気付かれる」

リサの為にも、感付かれてはまずい。

「ならばいっそ、堂々と正面から会いに行くか」
「な…!グレン様!目覚められたばかりで、もう無茶しようってつもりじゃないですよね!?」

フォードはそうさせまいと語勢を強めた。

「殺されはしないだろうと安心してるかもしれませんが、それは“今は”ってだけでしょう!?いつ何が起こるかもわからないのに、冗談でもそのような……」

冗談めかした中に本気が感じられたから、わざと真剣にいさめたのに、その目が本当にその気なのだと見えると、フォードは一瞬言葉を失った。

「グレン様……」
「目の前に俺が出て行けば、他に悪魔が居ることまで気が回るとは思えないが」
「できたらどうするのよ!他にもまだ悪魔が居たら!?おとりになって、まんまと食べられちゃうの!?」

ローザの言う通り、いくら力を制限しているといってもそこまで鈍感ではないだろう。

「グレン様が言う通り、例え何も無かったとして。それでもあなたの体に負担なのは変わらないんですよ?」

いさめるより、フォードのそれは今や懇願の色が強くなっていた。

「何もあなたが解放される事に反対してるのでありません。だけどもう少し、今は自分をいたわって」
「敵は嫌でも来るんだから。自分から危ないところに突っ込んでく必要ないじゃない」

フォードに続き、リサの言葉にもリサは頷いた。
けれどグレンはそれを聞き入れなかった。

「万が一何か起これば、アイラが守ってくれるんだろう?」

それは、有無を言わせぬ命令だった。
答えは頷く以外に無い。

「手出しさせない」

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