Desert Oasis Vampire 5 淡い疑いが、恐ろしい現実へと変わる。 グレンはリサの顔色を見て知っていると判断し、続けた。 「その少女は、狩りを楽しむようにして俺をつけ狙う悪魔だ。じわじわと追い込んで、仕留める時を待っている」 リサは震える手で口を押さえ、その名前を呟いた。 え?と、ローザが聞き返す。 「知ってるの?」 まさか。と、やっぱり。という思いが交錯する。 今度ははっきり告げる。 「クレア」 注がれる視線を受け、リサは逃げずに答えた。 「私が休学中に転校してきた子で……友達です」 たまたまグレンとお近づきになれたリサの学校に現れたのは、果たして偶然か。 意図があっての事だと誰もがわかった。 そして悪魔が口を開く。 「こうなる事は計算してたはずだ。学校でグレンを襲った時から、クレアに繋がるのは時間の問題だった」 何故、姿を見せたのか。 悪魔だとバレても構わなかったのだとしか思えない。 「繋げるのはお前だ。そしてそれは同時に、お前の側に悪魔が居るとグレンに知らせる事にもなる」 細長い瞳に赤い光彩。 悪魔に見詰められ、リサはその恐れを言葉にされた。 「お前は人質だ」 リサは恐怖の色を浮かべグレンを見た。 「そんな……」 利用され殺されるかもしれないという恐怖。 が、口をついて出たのは謝罪だった。 「ごめんなさい!私が…!私が余計な事をしなければ!グレン様に近付かなければ余計な迷惑をかけなかったのに…!」 ローザとフォードが、取り乱すリサを落ち着かせようと名を呼んだ。 「どうしよう…っ。私のせいでグレン様に何かあったら…!」 崩れ落ちて泣き出すリサの背を、白く細い指がそっと撫でた。 「リサ」 とても顔を上げられないリサに、グレンは穏やかに語りかけた。 「君はただ、君自身の気持ちに従っただけだろう?何も自分を責める事は無い」 しゃくり上げながら、リサはふるふると首を振った。 「俺は君の素直で正直なところを尊敬しているし、助けられてるよ。だからどうか、それを責めないで。悔やまないでほしい。君をこんな事に巻き込んでしまって、謝るのはむしろ俺の方だ」 そんなこと無いと言おうと顔を上げて、リサはその機会を逸した。 悲しげに眉を寄せた相貌があまりに、つらく苦しそうだったから。 「すまない。君に罪は無いのに……」 「グレンにだって無いじゃない」 ローザは悪魔への怒りを込めて言った。 「誰にだって、呪われていい理由なんて無い。悪魔なんて理不尽なものよ」 「そうですね。気をしっかり持って、胸を張りましょう。気持ちで負けてはいけません。つけこむ隙を与えなければいいんです」 フォードの言葉は力強く、一同に安心感と勇気を与えた。 「そこで一つ提案だ。アイラに、そのクレアの正体を探ってもらいたい」 アイラは何でもやるという勢いで喜んで頷いた。 「もちろん、グレンの為なら。だけど無闇に近づくのは避けたい。向こうに気付かれる」 リサの為にも、感付かれてはまずい。 「ならばいっそ、堂々と正面から会いに行くか」 「な…!グレン様!目覚められたばかりで、もう無茶しようってつもりじゃないですよね!?」 フォードはそうさせまいと語勢を強めた。 「殺されはしないだろうと安心してるかもしれませんが、それは“今は”ってだけでしょう!?いつ何が起こるかもわからないのに、冗談でもそのような……」 冗談めかした中に本気が感じられたから、わざと真剣にいさめたのに、その目が本当にその気なのだと見えると、フォードは一瞬言葉を失った。 「グレン様……」 「目の前に俺が出て行けば、他に悪魔が居ることまで気が回るとは思えないが」 「できたらどうするのよ!他にもまだ悪魔が居たら!?おとりになって、まんまと食べられちゃうの!?」 ローザの言う通り、いくら力を制限しているといってもそこまで鈍感ではないだろう。 「グレン様が言う通り、例え何も無かったとして。それでもあなたの体に負担なのは変わらないんですよ?」 いさめるより、フォードのそれは今や懇願の色が強くなっていた。 「何もあなたが解放される事に反対してるのでありません。だけどもう少し、今は自分をいたわって」 「敵は嫌でも来るんだから。自分から危ないところに突っ込んでく必要ないじゃない」 フォードに続き、リサの言葉にもリサは頷いた。 けれどグレンはそれを聞き入れなかった。 「万が一何か起これば、アイラが守ってくれるんだろう?」 それは、有無を言わせぬ命令だった。 答えは頷く以外に無い。 「手出しさせない」 [*前へ][次へ#] [戻る] |