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Desert Oasis Vampire

ふんわりと温かく包まれる感覚で、肉体があることを認識し、自分が目覚めたのだと知る。
重いまぶたを開け、体を起こす気になれるまで暫し時間が要った。
ぼんやりと何も考えずに中空へ視線を投げる。
暫くそうしてから頭を動かして、窓外を眺めてやっと起きる気になった。
自力で上体を起こすのが無理そうだったので、何とか転がって横にはなった。
が、やはり体に力が入らず起きられない。

転がり落ちる様にしてベッドから出たはいいが、支えきれずに自重でくずおれた。
巨大な荷物がのし掛かった様で、何処かに手をついていないとふらつく。
着替えるのも億劫で、寝巻きのまま裸足で部屋を出る。

ガシャガシャ鳴るサークルの音が耳に入り、大騒ぎの黒いもこもこに笑みが溢れる。

「ルイ」

抱き上げると放したくなくなった。

「一緒に外に出てみよう。暴れないでくれ」

わかっているのかいないのか、ルイはおとなしく抱かれている。

「今追い掛けっこに誘われても、お前を追い掛けられないからね」

それに傘や手袋どころか薄い寝巻きだけなので、このまま日の下へ出ると大惨事になる。
慎重にガラス戸を開けて窺うとじっとしていたので、テラスへ出る。
パラソルの下へ入って、日陰からはみ出ないように座る。

「いい子」

ルイを撫でながら、頬を撫でる風の心地よさを楽しむ。

「ルイ。俺は、どのくらい眠ってたんだろうねぇ?」

独り言ちる様に語りかける。
そしてぼんやりとあの部屋での出来事を思い返した。

ただの夢とは思えない。
とても不思議な経験だった。
言葉を用いなくても、魂が直接想念をキャッチするような。
だから一目で、彼が誰かもわかった。
彼が何を伝えに来たかも。


扉を開けた時、フォードは目に入った光景をすぐには理解できなかった。
眠っていたはずの彼が、まさかテラスに居るなんて。
考えるより先に足が動いた。

駆け寄って、ガラス戸を開ける。
刹那。
ガラス越しに目が合う。

「グレン様…!」

白い相貌にふわりと笑みが浮かんだ。

「フォード」

言葉にならない。
フォードは、信じられない思いで首を振るしかなかった。
愛兎を撫でて優しく笑う主人が、こうして戻ってきた。


「体に力が入らない。まだ夢の中に居るようだ」

やつれた頬に、弱々しい声が痛々しい。
けれどその表情が動くことに、声が発せられることに感謝する。

「食事を、できますか……?温かいスープとか、胃に優しいものがいいですよね」

声が震えるのを堪え、フォードは冷静に振る舞おうとした。

「あ、それとメープル医院に連絡しないと」

その前にまず部屋に戻ってもらうべきかと混乱する思考を、主人の声が落ち着かせる。

「フォード」

その一声が胸を詰まらせる。

「ただいま」
「……っ。……おかえりなさい」

手を延ばされればとらないわけにはいかない。
白く細い、頼りない指先。
けれどそれが何より、大きな支えになっているのだ。

「私は、あなたの為に在ります」

それはつまり、彼が無ければ私も無いという意味で、彼あっての私という意味だ。
守り、支えていながら、同時に支えられている。
そんなんじゃ頼りないと不安に思われたくなくて、悟られまいと笑顔をつくる。

「あなたをお守りする為に」

苦しみの中に居る彼を、私が救えるように。
強くあらねばならない。
けれどその強さすら、彼あってこそなのだ。

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