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Desert Oasis Vampire
第十四話 クレア
窓ガラスはすべて割れて無くなり、外から板で打ち付けられて光は入らない。
フォードが来てから危ない物は排除され、部屋は殺風景になった。
元は洋館に相応しいシャンデリアだった照明も、シーリングライトに変えられた。
シャンデリアをどうしたら危なくなるかわからないが。
天井が高いのもあって、シャンデリアに比べて室内がぐっと薄暗くなる。

何もかもが変わらない。
あの憂鬱な部屋。
なのに、今座り込んでいるこの部屋は、思い出の中のそれと一つ違った。
使用人が出入りするドアの向かい。
壁しかなかった場所に、現実には無かったドアがもう一つあるのだ。
俺はそのドアをずっと見張らねばならなかった。
だからここから動けずにいるのだ。

何故?とか、証拠は?とか、そんな疑問を抱く必要はない。
ただ、魂が知っているのだ。
感覚が事実を捉える。

見張っていないと、そこから悪魔がやってきて、俺の意識を強奪する。

好きな時にやって来て、気儘に部屋を乗っ取っては、散々暴れて帰っていく。
気付けばいつも傷だらけで、荒れた室内を整えるのに時間が要る。
こう何度も続けられてはいい加減持ちそうもない。
少しずつ侵食されて、先に心から負けてしまいそうだから。
だから、入られないように見張っているのだ。

ぺたんと座って見ていると、背後のドアからその人はやって来た。
音も無く、静かに。
目映い白光の中から、滑るようにすーっと彼は訪れた。

ドアが閉まった薄暗い部屋の中でも、彼自身が光を放っているかのように仄かに明るく見えた。
純白の長いローブ姿で、白金の髪の青年。
初めて会うはずなのに、もうずっと前から知っていたような。
瞬時に魂は理解した。

「行こう」

そよぐ風の様に話す人だった。

「何処へ?」

自己紹介や挨拶などはもう無駄だった。

「もう、行かなければ」
「でも……」

離れたらまた悪魔がやって来る。
振り返ってドアを見やると、彼は教えてくれた。

「最初に力が加わったのは胎児の時だ」

彼は“呪われた”という表現を使わなかった。

「接触するためのドアができた」

言葉を尽くさなくとも、思考は簡単に伝わった。
肉体を持たない、精神同士の対話だからなのだろう。

すっと手が差し伸べられ、重なった指先が、同じ白さをしていた。

「私の分身。騙されないで」

その手に導かれ、俺は部屋の外へ踏み出した。


ゆるやかな石畳の上り坂を、ローザは歩いていた。
いつもなら森の中を通って行くのだが、危険だというフォードの忠告を聞いてこちらにしている。
ヒールでどうやって森の中を歩くのだと不思議がられるが、実は古い通り道があるのだ。
細長く切り出した石を、斜面に段々に埋め込んだだけの簡単な階段だが、きつい傾斜はないので十分歩ける。

グレンが倒れてから二週間。
何度もお見舞いに通っているが、いまだに目を覚まさない。

「ローザさん!」

ローザの背中に、少女の声が届いた。
左右にくくってできた金色の房と、縦に巻いた毛先が揺れる。
フリルの付いた白いブラウスに、赤いタータンチェックのジャンバースカート。
相変わらずお人形の様な少女趣味全開の格好である。

二人が世間話をして笑うのは、暗くならないためだ。
今日は目覚めるようにと祈りながら、いつもガッカリして帰る破目になっているから、せめて会いに行く時は明るく、希望を持っていたいのだ。
だが、笑顔の裏で、リサはまた別の恐怖とも戦っていた。

友人を疑うなんて、そんなの馬鹿げた考えだと切り捨てようとした。
が、不安がどうしても拭えない。

何度か“ヴァンパイア様”との事を聞かれ、何か感付かれているのではと思うことはあったが、彼女もまたファン故の嫉妬から気にするのだろうと無理に頷いた。
しかしヴァンパイア様が中学校へ来た時の話を聞いて、彼女がとても恐ろしくなった。
リサは、彼が意識を乗っ取られ、暴れるところを見ているから。
発作で倒れる事が何を意味するか知ってしまったから。
彼が倒れた時に一人、クレアが居合わせたと聞いてゾッとしたのだ。
その可能性に恐怖した。

自分と変わらない普通の女の子に見えるのに、悪魔かもしれないなんて。

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あきゅろす。
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