Desert Oasis Vampire
2
ふんわりと温かく包まれる感覚で、肉体があることを認識し、自分が目覚めたのだと知る。
重いまぶたを開け、体を起こす気になれるまで暫し時間が要った。
ぼんやりと何も考えずに中空へ視線を投げる。
暫くそうしてから頭を動かして、窓外を眺めてやっと起きる気になった。
自力で上体を起こすのが無理そうだったので、何とか転がって横にはなった。
が、やはり体に力が入らず起きられない。
転がり落ちる様にしてベッドから出たはいいが、支えきれずに自重でくずおれた。
巨大な荷物がのし掛かった様で、何処かに手をついていないとふらつく。
着替えるのも億劫で、寝巻きのまま裸足で部屋を出る。
ガシャガシャ鳴るサークルの音が耳に入り、大騒ぎの黒いもこもこに笑みが溢れる。
「ルイ」
抱き上げると放したくなくなった。
「一緒に外に出てみよう。暴れないでくれ」
わかっているのかいないのか、ルイはおとなしく抱かれている。
「今追い掛けっこに誘われても、お前を追い掛けられないからね」
それに傘や手袋どころか薄い寝巻きだけなので、このまま日の下へ出ると大惨事になる。
慎重にガラス戸を開けて窺うとじっとしていたので、テラスへ出る。
パラソルの下へ入って、日陰からはみ出ないように座る。
「いい子」
ルイを撫でながら、頬を撫でる風の心地よさを楽しむ。
「ルイ。俺は、どのくらい眠ってたんだろうねぇ?」
独り言ちる様に語りかける。
そしてぼんやりとあの部屋での出来事を思い返した。
ただの夢とは思えない。
とても不思議な経験だった。
言葉を用いなくても、魂が直接想念をキャッチするような。
だから一目で、彼が誰かもわかった。
彼が何を伝えに来たかも。
扉を開けた時、フォードは目に入った光景をすぐには理解できなかった。
眠っていたはずの彼が、まさかテラスに居るなんて。
考えるより先に足が動いた。
駆け寄って、ガラス戸を開ける。
刹那。
ガラス越しに目が合う。
「グレン様…!」
白い相貌にふわりと笑みが浮かんだ。
「フォード」
言葉にならない。
フォードは、信じられない思いで首を振るしかなかった。
愛兎を撫でて優しく笑う主人が、こうして戻ってきた。
「体に力が入らない。まだ夢の中に居るようだ」
やつれた頬に、弱々しい声が痛々しい。
けれどその表情が動くことに、声が発せられることに感謝する。
「食事を、できますか……?温かいスープとか、胃に優しいものがいいですよね」
声が震えるのを堪え、フォードは冷静に振る舞おうとした。
「あ、それとメープル医院に連絡しないと」
その前にまず部屋に戻ってもらうべきかと混乱する思考を、主人の声が落ち着かせる。
「フォード」
その一声が胸を詰まらせる。
「ただいま」
「……っ。……おかえりなさい」
手を延ばされればとらないわけにはいかない。
白く細い、頼りない指先。
けれどそれが何より、大きな支えになっているのだ。
「私は、あなたの為に在ります」
それはつまり、彼が無ければ私も無いという意味で、彼あっての私という意味だ。
守り、支えていながら、同時に支えられている。
そんなんじゃ頼りないと不安に思われたくなくて、悟られまいと笑顔をつくる。
「あなたをお守りする為に」
苦しみの中に居る彼を、私が救えるように。
強くあらねばならない。
けれどその強さすら、彼あってこそなのだ。
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