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Desert Oasis Vampire

押さえ込まれてもなおもがき、暴れる悪魔にフォードが叫ぶ。

「この人から今すぐ出ていけ!何のうらみがあってこの人にこだわる!?」

悪魔は不気味に、ゲラゲラと笑った。

「俺はコイツに言ってやった。そんなの、ただ『殺したいから』だとなぁ!」

もしや。と、気付く。
一人で森に入った時、グレンはこの悪魔と会ったのか……?

「ひひひひっ!ずいぶん怯えていたなぁ……」

愉快だと言わんばかりに。
フォードは怒りに任せて怒鳴り付けてやりたくなったが、何とか堪えた。
とはいえ、声は唸るようにぶつけられた。

「この人は普通の人間として、人間らしく生きられればいいと願っているのに!ただそれだけなのにっ!お前は異様に執着を見せてこだわっている!ただ殺したいだけ?それにしてはこんな聖域が点在する所までご足労ですね!回りくどいやり方をしてまで、どうしてもこの人を地獄に引きずり込みたいか!?」
「はっ!お遊びだろ?単純なゲームでも、一つ制約が加わるだけで面白い」
「いいや、嘘だ。言ってみろ。この人でなきゃいけない理由を!いくら祓われ、拒絶されても、まだこの人にこだわっている!そこまでしたって、利益など高が知れてる。得どころか損ばかりだからな!意地だって言うならマヌケだ!無知で幼稚な愚か者だ!」

グレンはぐっと歯を噛み締め、悔しそうに顔を歪めた。

「お前の勝手な都合で、グレン様がどれだけ辛く苦しい思いをしてきたか…っ」
「報いだ」
「何……?」

報い。
意外にも挑発は成功したのか。

「何の報いだというんだ!?」

身勝手な理由で逆恨みしてるだけなら、許せない。
しかしグレンの場合、前世のシャインと関係している可能性も高い。

「グレン様がした事の報いならば受ける。だが、お前がしている事は間違っている。罪なら神が裁かれる。お前は報いだと言って恨みを晴らそうとしているだけだろう!?」
「もう遅い。コイツは生きてるだけで罪だ」

捨て台詞を吐き、悪魔の気配は消え去ってしまった。
フォードは気絶したグレンを放すと、ベッドへ運んで寝かせた。

「乱暴にして、すみません」

聖水を額につけて、十字架がついたシルバーのブレスレットを白い手首につける。

「貴方を、傷付けてしまった」

フォードは白い手を握り、眠るグレンに謝った。


それからグレンはずっと眠りっぱなしで、心配して主治医のメープルが呼ばれた。
ただ眠っているだけと聞いて安堵はしたが、それだけに心配でもある。

何故、起きないのか。

もしかしたら、あんな事を言って傷付けてしまったから?
辛い真実を知ってしまったから?
心を消耗してしまって、辛い現実から逃れたのだろうか。
そんな事を考えて、フォードはただただ自分を責め続けた。

「ごめんなさい、グレン様。やっぱり、貴方は何も謝る事は無い。みんな私が悪いんです。私が……」

グレンを騙した。
悪魔に呪われ、吸血鬼(ヴァンパイア)の様にされてしまったというのに、病気だと偽った。
グレン自身が望む様な、人間らしい人間だと。
そう思っていてほしかった。

一番に信じ、頼ってくれていたというのに。
暴れて襲いかかり、その人を吸血するマネをしているなんて、気付いてほしくなかった。
いや。マネではない。
グレンが本当に吸血鬼(ヴァンパイア)ではなくとも、実際に首に噛みつき、血を味わった。
グレンは呪われた上、吸血鬼(ヴァンパイア)にまで貶められたのだ。

もっとうまく、伝えられたはずだろう。
貴方のせいではまったくないと。教えられたはずだ。
なのにその場しのぎでごまかし続け、グレンに言わせてしまった。

暴言を吐いたのも、他にいくらでも言い方はあったのに。
酷い言葉でグレンを傷付けてしまった。

グレンは生まれただけなのに。
ただ生きているだけなのに。
勝手に恨まれ、それさえ邪魔されようとしている。


何日たっても、グレンは眠り続けた。
頻繁にメープル医院の誰かが来てくれて、やつれていくグレンに点滴もした。

ローザとリサは何度かお見舞いに来たが、アイラは姿を現さなかった。
フォードは時間が許す限りグレンの部屋に訪れ、グレンに話し掛け続けた。

「私は貴方の為に在ります」


フォードが部屋を出ていった後、眠っているグレンがふーっと長く息を吐き出した。

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