Desert Oasis Vampire 5 押さえ込まれてもなおもがき、暴れる悪魔にフォードが叫ぶ。 「この人から今すぐ出ていけ!何のうらみがあってこの人にこだわる!?」 悪魔は不気味に、ゲラゲラと笑った。 「俺はコイツに言ってやった。そんなの、ただ『殺したいから』だとなぁ!」 もしや。と、気付く。 一人で森に入った時、グレンはこの悪魔と会ったのか……? 「ひひひひっ!ずいぶん怯えていたなぁ……」 愉快だと言わんばかりに。 フォードは怒りに任せて怒鳴り付けてやりたくなったが、何とか堪えた。 とはいえ、声は唸るようにぶつけられた。 「この人は普通の人間として、人間らしく生きられればいいと願っているのに!ただそれだけなのにっ!お前は異様に執着を見せてこだわっている!ただ殺したいだけ?それにしてはこんな聖域が点在する所までご足労ですね!回りくどいやり方をしてまで、どうしてもこの人を地獄に引きずり込みたいか!?」 「はっ!お遊びだろ?単純なゲームでも、一つ制約が加わるだけで面白い」 「いいや、嘘だ。言ってみろ。この人でなきゃいけない理由を!いくら祓われ、拒絶されても、まだこの人にこだわっている!そこまでしたって、利益など高が知れてる。得どころか損ばかりだからな!意地だって言うならマヌケだ!無知で幼稚な愚か者だ!」 グレンはぐっと歯を噛み締め、悔しそうに顔を歪めた。 「お前の勝手な都合で、グレン様がどれだけ辛く苦しい思いをしてきたか…っ」 「報いだ」 「何……?」 報い。 意外にも挑発は成功したのか。 「何の報いだというんだ!?」 身勝手な理由で逆恨みしてるだけなら、許せない。 しかしグレンの場合、前世のシャインと関係している可能性も高い。 「グレン様がした事の報いならば受ける。だが、お前がしている事は間違っている。罪なら神が裁かれる。お前は報いだと言って恨みを晴らそうとしているだけだろう!?」 「もう遅い。コイツは生きてるだけで罪だ」 捨て台詞を吐き、悪魔の気配は消え去ってしまった。 フォードは気絶したグレンを放すと、ベッドへ運んで寝かせた。 「乱暴にして、すみません」 聖水を額につけて、十字架がついたシルバーのブレスレットを白い手首につける。 「貴方を、傷付けてしまった」 フォードは白い手を握り、眠るグレンに謝った。 それからグレンはずっと眠りっぱなしで、心配して主治医のメープルが呼ばれた。 ただ眠っているだけと聞いて安堵はしたが、それだけに心配でもある。 何故、起きないのか。 もしかしたら、あんな事を言って傷付けてしまったから? 辛い真実を知ってしまったから? 心を消耗してしまって、辛い現実から逃れたのだろうか。 そんな事を考えて、フォードはただただ自分を責め続けた。 「ごめんなさい、グレン様。やっぱり、貴方は何も謝る事は無い。みんな私が悪いんです。私が……」 グレンを騙した。 悪魔に呪われ、吸血鬼(ヴァンパイア)の様にされてしまったというのに、病気だと偽った。 グレン自身が望む様な、人間らしい人間だと。 そう思っていてほしかった。 一番に信じ、頼ってくれていたというのに。 暴れて襲いかかり、その人を吸血するマネをしているなんて、気付いてほしくなかった。 いや。マネではない。 グレンが本当に吸血鬼(ヴァンパイア)ではなくとも、実際に首に噛みつき、血を味わった。 グレンは呪われた上、吸血鬼(ヴァンパイア)にまで貶められたのだ。 もっとうまく、伝えられたはずだろう。 貴方のせいではまったくないと。教えられたはずだ。 なのにその場しのぎでごまかし続け、グレンに言わせてしまった。 暴言を吐いたのも、他にいくらでも言い方はあったのに。 酷い言葉でグレンを傷付けてしまった。 グレンは生まれただけなのに。 ただ生きているだけなのに。 勝手に恨まれ、それさえ邪魔されようとしている。 何日たっても、グレンは眠り続けた。 頻繁にメープル医院の誰かが来てくれて、やつれていくグレンに点滴もした。 ローザとリサは何度かお見舞いに来たが、アイラは姿を現さなかった。 フォードは時間が許す限りグレンの部屋に訪れ、グレンに話し掛け続けた。 「私は貴方の為に在ります」 フォードが部屋を出ていった後、眠っているグレンがふーっと長く息を吐き出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |