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Desert Oasis Vampire

「辛い思いをさせてごめん……。俺が……俺がまともな人間だったら…っ」
「やめてください。そんな事言わないで。私はグレン様の為に在るのですから」

グレンは涙で潤んだ目でフォードを見上げ、ゆるゆると首を振った。

「ん?何です?」

優しく包んだフォードの手からするりと抜けると、その指先は怯えて躊躇いながら、フォードの頬をさらりと撫でた。

「フォード…っ。ありがとう。ずっと言わないでくれて」

指先は震えながら、ゆっくりと首を伝う。

「グレン様……」

まさか。
フォードは思わず瞠目した。

指が、ジャケットの高い襟にかかった。

「グレンさ」
「フォード。俺は……」
「違う。違うんです、グレン様」

フォードは慌てて襟元を押さえたが、それが更にグレンに確信を与えた。

「吸血鬼(ヴァンパイア)とは名ばかりだと思ってた……」
「グレン様っ」
「違うって思いたかったのに…っ」

ジャケットの襟を強引にはだけさせると、フォードの首筋にはグレンが想像した以上の傷跡があった。
正確には、グレンが噛みついた歯形だ。
想像以上に酷い傷を見たグレンはショックを受け、両手で顔を覆った。

「何て事を…!」

啜り泣く、愛しい子。
フォードは優しく穏やかな声色でグレンを静かに包んだ。

「グレン様が居なかったら、私は生まれなかったのですから。すべてはグレン様の為に。私はグレン様のものです。だからそんなに悲しまないで。私はこれが幸せなのです」
「どうして……」

艶やかな黒髪を撫で、グレンが顔を見せると濡れた頬を拭ってやる。

「どうして、そんな風に考えるのか?」

目線だけで言いたい事を察し、その問いを引き継いだ。

「単純な事です。これは神がお決めになった事。グレン様を守る為に、神がグレン様の元へ私を使わせてくださった」

グレンは悲しげに目を伏せると、きゅっと唇を噛み締めた。
ずっと騙していたから、フォードの言葉をすぐには信じられないのだろう。
それを悟って、フォードは真摯に言葉を尽くす。

「それまで無意味だった人生が、虚ろだったこの命が、グレン様と出会う事でやっと意味を持つ事が出来た。私はグレン様を救う事で、確かにそれ以上に救われた。この光栄な役目をお与えになった神に感謝し、私はこの使命を喜びと感じている。だからこんな事くらい、何でもないんですよ?」

些細な事だと言って笑うフォードを見て、グレンは泣きながら笑った。

「でも。フォードが死なない程度に、俺の暴走を止めて、ね?」

残して居なくならないで。と、その瞳が訴えていた。

「ええ、もちろん」

フォードは甘く微笑んで、グレンの髪を撫でた。

「朝食はフルーツとか、軽いものにしますか?」
「うん」
「わかりました。安静にしていてくださいね」

笑顔を交わす。
振り返った。刹那。
ドン!と、テーブルを叩く音。

たった今。
今さっきまで、グレン様は笑っていたのに。

「ああ……グレン様……」
「くくっ……くくくくくっ」

私を試すのは神か。悪魔か。

「グレン様」

普段は決してしない舌なめずりをして、片頬でニヤリと下品に笑う。

「品性を疑いますね。グレン様の顔で、そのように笑わないでください」
「あ゛ぁあ!?」

掴みかかってきた邪悪な者はやはり、首を狙ってきた。
襟をなおしていなかったため、噛みつこうと顔を近付けてくる。
揉み合いながらも必死で聖水を取り出したところを弾き飛ばされ、瓶が飛んでいってしまった。

「バカめ」
「くっ」

油断していた。
直前まで綺麗に笑っていたから、邪悪な者に支配され、それが隠されてしまった事に落胆していた。

口を開けて迫るグレンに、フォードは苦しげな顔で叫んだ。

「グレン様…!私を殺すのですか!?」

酷い事を言っている自覚はある。
あるからこそ、自分の心もひどく痛む。
酷く、狡い手だ。
守ると言ったくせに、何て不甲斐ない。

襲来する邪悪な者の存在を認めたせいもあってか、動きを止めた上に、固まった表情に一筋。
涙が伝った。

乱暴にして傷付けないようにと気を使っておいて、心を傷付けてしまった。
心に訴えるなら、他にもいくらだってあったのに。

「申し訳ありません、グレン様」

覚悟を決め、思いきって腕を捻りあげて押さえ込むと、気付いたようにまた暴れだした。

「汚い手で触るな!神の手先めェ!」
「お前こそ!この人の口で汚い言葉を吐くな!悪魔め!」

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あきゅろす。
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