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Desert Oasis Vampire

指先は震え、ガラスがカタカタと揺れている。

「鍵……鍵を、フォード……」

指が震えて鍵を閉められない。

「鍵を閉めてくれ、フォード!」
「はいっ」

固まっていたフォードは急いで動き、使用人達はグレンの上げた声にびくりと肩を揺らした。
そしてグレンが落ち着き無く歩き回るのを、声も出せずにただ見ていた。

「閉めました。グレン様」


グレンは少女の言葉を思い返していた。

少女は、“何故悪魔は人を呪うのか”という問いに、「殺したいから」と答えた。
単純な事だ。
理由など無いのだ。
殺したいから人を呪う。

少女が昔グレンを呪った悪魔と同じかはわからないが、少なくとも今、この存在がグレンを殺そうと狙っているのは確かだ。

グレンは歩き回りながら、落ち着こうとしてひたすら思考を口に出した。

「呪われている」

グレンが呟いた言葉にフォード達はドキリとした。

「俺はただ、普通に生きてるだけなのに」
「グレン様」
「殺したいと思われて、そのせいで要らないと言われて」
「グレン様っ」
「普通の人間ではなくなってしまった…!」

フォードは何度も名前を呼ぶが、取り乱しているグレンには届いていないようだった。

「何もしてない。ただ生まれただけだ」
「グレン様、いけません」
「俺は居るだけで……その命が許されない」
「グレン様!」
「生きている事が許されない!」
「グレン様!私を見て下さい!」

フォードはグレンの肩を掴み、強引に向かい合った。
その顔は青ざめて、乱れた呼吸はかすかに震えている。
ゆっくりと顔を上げ、フォードと目が合うと、じわりと涙が滲む。

「ずっと一人ぼっちでも、フォードが居るから……。フォードだけが“俺の為に在る”と言ってくれたから。生きる理由を、希望をつくってくれたから。だから生きてこれたのに…っ」
「そうです。そうです!私は貴方の為に在ります!」
「ずっとずっと……」

フォードは、顔を覆ったグレンの肩を揺さぶって叫んだ。

「お願いです。闇を見ないで。“その”声に耳を貸さないで。侵入を許してはいけない!」
「俺は、呪われてきた……」
「グレン様、聞いて!私を見て下さい!奪われてはいけない!」

グレンは嫌がるように唸って、フォードから逃れようとした。
しかしフォードも放そうとはしない。

「俺は……。俺は、“あの”悪魔に殺されてしまう…!」

それを聞いて、グレンが森の中で何を見てきたかわかった気がした。

「どうすれば……。どうすればいい?」

震えながら、涙をいっぱいに溜めて。グレンはフォードにすがりついた。

「大丈夫。私はまだ、貴方の為にここに居ます。貴方の光になる為に。貴方の希望になる為に」
「生きたい。生きていたい……。だけど、生かしてはくれない…っ」
「グレン様。貴方が諦めそうになっても、私は貴方を諦めません」

はらはらと、涙が青白い頬につたった。

「フォード……」

グレンが真っ直ぐにフォードの目を見返した。

「助けて…っ」

そのままふっとグレンの体から力が抜け、ぐらりと倒れるのをフォードが抱き留めた。

静寂が訪れると、使用人のすすり泣きがしていた。
ミセスディナとハンナがミカルを慰めている。
悪魔に呪われた主人の苦悩を。その独白を聞いて、彼女達も苦しくなったのだろう。

フォードはグレンを横抱きにして寝室へ運び、ベッドへ寝かせた。
涙に濡れた頬を拭ってから、聖水で濡らした指先でそっと額に触れる。

「おやすみなさい」


寝息が安定するのを聞いてから寝室を出たフォードを待っていたのは、ミセスディナだけだった。

「お出掛けの際も、もしかしたら“何か”見たんじゃないでしょうか?」
「そうですね。でも、ここまでは入って来られないはずです」
「では、またアメリアの時の様な……?」

誰かを操ってグレンに近付こうとしているのかもしれない。

「警戒すべきですね」

確実に、悪魔の手がグレンに近付いてきている。

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