Desert Oasis Vampire 3 指先は震え、ガラスがカタカタと揺れている。 「鍵……鍵を、フォード……」 指が震えて鍵を閉められない。 「鍵を閉めてくれ、フォード!」 「はいっ」 固まっていたフォードは急いで動き、使用人達はグレンの上げた声にびくりと肩を揺らした。 そしてグレンが落ち着き無く歩き回るのを、声も出せずにただ見ていた。 「閉めました。グレン様」 グレンは少女の言葉を思い返していた。 少女は、“何故悪魔は人を呪うのか”という問いに、「殺したいから」と答えた。 単純な事だ。 理由など無いのだ。 殺したいから人を呪う。 少女が昔グレンを呪った悪魔と同じかはわからないが、少なくとも今、この存在がグレンを殺そうと狙っているのは確かだ。 グレンは歩き回りながら、落ち着こうとしてひたすら思考を口に出した。 「呪われている」 グレンが呟いた言葉にフォード達はドキリとした。 「俺はただ、普通に生きてるだけなのに」 「グレン様」 「殺したいと思われて、そのせいで要らないと言われて」 「グレン様っ」 「普通の人間ではなくなってしまった…!」 フォードは何度も名前を呼ぶが、取り乱しているグレンには届いていないようだった。 「何もしてない。ただ生まれただけだ」 「グレン様、いけません」 「俺は居るだけで……その命が許されない」 「グレン様!」 「生きている事が許されない!」 「グレン様!私を見て下さい!」 フォードはグレンの肩を掴み、強引に向かい合った。 その顔は青ざめて、乱れた呼吸はかすかに震えている。 ゆっくりと顔を上げ、フォードと目が合うと、じわりと涙が滲む。 「ずっと一人ぼっちでも、フォードが居るから……。フォードだけが“俺の為に在る”と言ってくれたから。生きる理由を、希望をつくってくれたから。だから生きてこれたのに…っ」 「そうです。そうです!私は貴方の為に在ります!」 「ずっとずっと……」 フォードは、顔を覆ったグレンの肩を揺さぶって叫んだ。 「お願いです。闇を見ないで。“その”声に耳を貸さないで。侵入を許してはいけない!」 「俺は、呪われてきた……」 「グレン様、聞いて!私を見て下さい!奪われてはいけない!」 グレンは嫌がるように唸って、フォードから逃れようとした。 しかしフォードも放そうとはしない。 「俺は……。俺は、“あの”悪魔に殺されてしまう…!」 それを聞いて、グレンが森の中で何を見てきたかわかった気がした。 「どうすれば……。どうすればいい?」 震えながら、涙をいっぱいに溜めて。グレンはフォードにすがりついた。 「大丈夫。私はまだ、貴方の為にここに居ます。貴方の光になる為に。貴方の希望になる為に」 「生きたい。生きていたい……。だけど、生かしてはくれない…っ」 「グレン様。貴方が諦めそうになっても、私は貴方を諦めません」 はらはらと、涙が青白い頬につたった。 「フォード……」 グレンが真っ直ぐにフォードの目を見返した。 「助けて…っ」 そのままふっとグレンの体から力が抜け、ぐらりと倒れるのをフォードが抱き留めた。 静寂が訪れると、使用人のすすり泣きがしていた。 ミセスディナとハンナがミカルを慰めている。 悪魔に呪われた主人の苦悩を。その独白を聞いて、彼女達も苦しくなったのだろう。 フォードはグレンを横抱きにして寝室へ運び、ベッドへ寝かせた。 涙に濡れた頬を拭ってから、聖水で濡らした指先でそっと額に触れる。 「おやすみなさい」 寝息が安定するのを聞いてから寝室を出たフォードを待っていたのは、ミセスディナだけだった。 「お出掛けの際も、もしかしたら“何か”見たんじゃないでしょうか?」 「そうですね。でも、ここまでは入って来られないはずです」 「では、またアメリアの時の様な……?」 誰かを操ってグレンに近付こうとしているのかもしれない。 「警戒すべきですね」 確実に、悪魔の手がグレンに近付いてきている。 [*前へ][次へ#] [戻る] |