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シリーズ・短篇

テフはテトよりも少し背が高くて、スタイルがいい。
挨拶をする声もテトより低く、雰囲気もずっと落ち着いて大人っぽく見える。
彼はやはり愛想笑いはせず、切れ長の目のせいか冷たく刺々しい印象を受ける。
が、テトはそれよりも喜びが勝っていて、そのことで不快感を抱くなんてことはなかった。
彼の無事を、テトは心から喜んだ。

「彼はお前に会いに来られたのだ」

席に落ち着くと、ミオスがそう切り出した。
テトは反射的にルティを見て、ぼくに?と口走ってしまった。
あっと口を押さえて反省するが、ルティは気にせず話し始めた。

「ご覧の通り、わたしは少し普通のライオンと毛色が違う」

それは先天的に色素が欠けている、アルビノというものらしい。
テトはそんなこととは知らず、無神経にとても失礼な事をしてしまったんだなと銀行での事を反省したが、アルビノに対する世間の反応を聞いてそれがますます深くなった。

突然変異のアルビノは神々の血に背いた異端のものとされ、虐げられ、爪弾きにされるケースが多い。
ルティも高貴で偉大なる王者でありながら、奇異の目で見られ、蔑まれ、差別されるのだ。
そういった意味で彼もまた、血統や階級というものに疑問を抱いていた。
そんな中で、あの日テトに会ったのだ。

「君はわたしを見て、神様の様に綺麗だと言ってくれた。その率直な感想が、好意的なものであるとよくわかった」

彼が無知ゆえの無礼を許してくれている事にテトは安堵した。

「銀行の外でこのテフが倒れているのを見た時、わたしの頭に先程の感じのよい子猫の姿がよぎった。そこで気付くと、わたしはこの黒い子猫へ手をのばしていた」

ルティは二人の前でテフの頭を撫でた。
それだけで彼がとてもテフを大事にして可愛がっているのだとわかったし、そして同時にミオスとテトの二人を信用してくれているのだともわかった。
人前で親しくすることがはばかられるのは、二人も重々承知している。
それは同性だからではなく、血統や階級の問題でだ。

ルティに撫でられたテフは照れて少しうつむいたが、大人のミオスは見ぬふりをした。
けれどテトは初めて彼の表情が動いて感情が見えたことが嬉しかった。
彼らも自分達と同じように、愛情に満ちた関係だと察せられて尚更嬉しかった。

「この子と出逢えたのは君のお蔭だ。大切な存在になって、改めてそう思う。だから感謝を伝えに来たのだ」

テトは水色の目を輝かせ、にっこりと微笑んだ。

「テフが助かっていて、本当によかったですっ」

ルティは事前にミオスと連絡をとった時、テトがテフを助けようとしていた事を伝えていた。
ルティはそこにも感謝を示し、そしてあの時抱いた好感が誤りでなかったと再確認した。
そんな快い子猫に元気が無いと知り、ルティは今こそ会うべきだと思った。
この恩を返すべきだと。

「同じ立場として、テフと友人になってくれないだろうか」

それはテトにとって嬉しい申し出だった。

「君を救ったマヘス氏を失った悲しみを埋める事は叶わないだろうが、それを少しはまぎらわす助けくらいにはなれると思うのだが」

テトはそれを聞いて初めて、ミオスとルティが話し合ってそうしてくれたのだと悟った。
テトはマヘスが亡くなって以来初めて、嬉しさで涙を流した。


テトとテフは大人達に促され、応接室の大きな窓から見える中庭に出た。
二人はガーデンチェアに座りしばらく話していたが、その内じゃれて遊びはじめ、帰る頃にはテトにテフが笑いかけるまでになっていた。
人に心を開かず、表情も乏しいテフの変化にルティも喜び、重ねて礼を述べた。

ミオスは二人で何を話したのかたずねたが、テトは恥ずかしがって言わなかった。

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