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シリーズ・短篇

ミオスはテトを教会へ連れてマヘスと対面させてやり、埋葬にも同伴させた。
その際、ミオスが親族にテトをマヘスが拾った子だと紹介した。
誰もそれを批判する者はなかったし、テトを蔑視する者もなかった。
マヘスらしい善行と受け止め、テトをマヘスが遺した形見の一つとして受け入れた。


テトはしばらくの間マヘスのイスにくるんと丸くなって眠ることがあった。
するといつもミオスが見つけてくれて、優しく慰めてくれた。
ミオスは、マヘスの事故の時に病院へテトを連れて来なかった事で全員を注意した。

彼らは盲目ではない。
偏りはあれど、ミオスとテトの関係に気付く目は持っている。
ミオスもテトも“その”事実を隠している意識は無い。
特に口外する必要が無いと思ってるのは二人共通だが、テトに至っては“その”自覚すら無い。
だから、二人の特別な関係への反発を察しているのは今はミオスだけだ。

ミオスは生前、マヘスにテトが特別な存在であることを報告していて、マヘスも“それ”を承知していた。
二人の関係は公然の秘密であった。
知らぬはテトばかり。
テトが反感を買いいじめられるのは、そういったのんきな無知さへの怒りもあったのかもしれない。
ミオスの憤りと、マヘスの死に際して寄り添い支え合う二人の姿を見ていた者達は、次第に振り上げた拳を下げつつある。

目に見えて元気が無いテトを膝に抱え、ミオスは溜息まじりに言った。

「何処か悪いところがありはしないだろうな?」

しかしテトは不思議そうに首を傾げただけだ。

「お前から笑顔が消えて久しい。いつまでもそのままだと、今は何ともなくともいずれ本当に体を壊すのではと心配だ」

ミオスは執事から、テトが食事を残すようになったと報告を聞いていた。
食べきれずにちょっとずつ残した程度なのだが、顔色が冴えないので気になっていた。
悲しげに目を伏せたテトの手をとり、愛しげに撫でる。

「一日に一度もお前の笑った顔が見られないのはさみしいものだ」

テトのために、早く元気を出せと尻を叩くつもりはない。
テトの存在はミオスにとって癒しなのだ。
だから、ミオスのために笑ってほしかった。

ん?と様子を見て促してもテトの表情は動かない。
そこでミオスはくすぐってじゃれた。
それで笑わないとしても、笑わそうとふざけてみた自分の滑稽さを笑ってくれればと思った。

ミオスの気遣いから愛情を感じたテトは、ゆっくりと顔を綻ばせた。
そしてケラケラと笑い出した。

「やっと笑ったな」

ミオスはテトを抱き上げて、額に軽くキスをした。
テトは可愛らしい笑顔でふふっと笑って、ミオスにきゅっと抱きついた。

「明日、客人がいらっしゃるのだが、お前も同席するように」

テトははい。と頷いたが、お客様の目に触れることはミオスに言われない限り無いので内心少し緊張が走った。
特別な扱いとはいえ、そこはミオスの表での顔や仕事に関することなので、気安く踏み込んでいけない範囲だ。
どうして?誰が来るの?と、プライベートの延長で聞いてはいけない気がしていた。
公私を区切り、立場をわきまえるべきだと。


この日もミオスは部屋で客人を待ちながら、膝に乗せたテトの頭を撫でていた。
気持ちよさそうにうーんとあごを上げてのどを見せる様は正に猫で、ミオスは指の背でのどを撫でてやった。
ごろごろと言い出しそうな、満足げな顔をしている。

ノックがしてお客様がいらしたと外から声が掛かると、テトは慌てて膝から降りようと体を起こした。
しかしミオスが胸を押さえてそれを拒んだのと、執事がそれだけを言って行ってしまったのでそのままになっていた。

まんまるい目を更にまんまるくしたテトにふっと笑って、ミオスはその小さな額にキスをしてからテトを立たせた。

応接室で待っているようにというのは、ミオスのサプライズだった。
テトは緊張して大きなソファーの横に立って待った。
そこにやって来たのは、ライオンの獣人だった。
ルティという、あの白いライオンである。

テトは目を見張ったが、お行儀よく振る舞おうと気を付けていたので声を上げずに済んだ。

「覚えているだろう?テト」
「もちろんです」

ミオスの紹介で挨拶をすると、ルティは何の躊躇も無くテトへ手を差し出した。
偉大なる王者が自分と握手することをよしとするなんて驚きだ。
テトは一拍遅れて、さっと手を出した。

「テフ、お前もだ」

振り向いたルティの背後から現れたのは、あの日銀行の前で見た黒猫の獣人だった。
テトは今度こそあっと口を開けてしまった。

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あきゅろす。
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