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シリーズ・短篇

テトは同じ様に膝に乗せられて頭を撫でられても、ミオスの時の様にマヘスにはそわそわしなかった。
すりすりしたり、抱っこされる事すらマヘスに対してはしてほしいとは思わない。
ましてあのとても気持ちいい行為など。
想像もできないし、テトはマヘスとも他の誰ともそれをしたいと考えた事が無い。
その行為は大好きで、毎回快感にうっとりと浸ってしまうほどだけれども、それがミオスとの愛情のもとのみでうまれるものだと本能的にわかっているからだ。
それらの愛情に区別があることをテトは教えてもらったことがないので、マヘスに対するものとミオスに対するものに差があり、それらにそれぞれ違う名がついていることも知らない。

親愛と、性愛。

そしてそこに友情が加わった時、テトは初めてミオスに対する情動が特別なものだと自覚することになる。

彼と出会ったのは、ミオスの付き添いで行った銀行の前だった。
付き添いというのは口実で、銀行での用事が終わってから二人で食事に行く予定なのだ。

テトはしばらく馬車の中でおとなしく待っていたが、飽きてふと外へ目をやった。
するとテトと同じ耳と尻尾だけ猫の獣人がふらふらと歩いてくるのに目が止まった。
彼はテトと同じくらいの年頃に見えた。
癖の無い真っ直ぐな黒髪からピンと黒い耳が出ている。
テトは耳も尻尾も毛が長めでふわふわだが、彼は短い。
目尻がシャープで、表情が無いとつんとした印象に映る。
物乞いをするならば愛想が無いよりはあった方がいいに越したことはない。
そんな余裕も無いほど飢えているのか。テトは心配で気になっていた。
それが、かつての自分の姿を彷彿とさせた。

テトは何か少しでも彼の助けになる術があるならすぐにそうしたかったが、ただ見ているしかなかった。
励ましの言葉では腹はふくれない。
けれど、彼が力無く横たわってしまうと黙ったままではいられなくなった。

ミオスが早く出てきてくれれば。
今日をしのげるパンくらいは買ってくれるかもしれない。
変に同情してその場しのぎにしかならない些細な手助けをしてやったって、逆にかわいそうだと言う者もいるが、そうではなかった。
物乞いからしてみたら、その場をしのげればいいのだ。
死にそうなほど飢えている今、少しでも生き延びるために何かを口にしたい。

テトは思い付いて馬車を飛び出した。
銀行の中に水が飲める場所くらいあるはずだ。
物乞いの時分には追い払われて入れなかったが、今のテトなら身なりもきちんとととのえている。
お蔭で止められずに中に入れたが、見えるところにミオスの姿は無い。
勝手に動いて問題になったら大変なので、まずはミオスに説明して許可をもらおうとしたのだ。

銀行に来たことなどないのでどうしたらいいかわからない。
けれども人の様子を見てテトもカウンターへ向かった。
は、いいのだが。カウンターからやっと頭だけ出るほどの高さだ。

「あのぅ……」

カウンターの中には大きなトラの獣人が座っていた。

「順番を守ってください」
「あっ、ちがうんです」

ミオスがどこに居るかだけ聞こうとしたのだが、一切聞く耳を持ってくれない。
やはりここはおとなしくミオスの用事が終わるのを待つべきか。
そう思った時だ。
テトの隣に大きな獣人が立った。
人様をジロジロ見るつもりなど無かったのだが、自然とやった視線がそこで止まってしまった。

彼はミオスと同じライオンの獣人だったが、色が違った。
顔もたてがみも、真っ白なのだ。
マヘスに拾われて以来、テトは見たこともなかったような高貴な階級の人達を見ることができた。
ホワイトライオンの獣人も見たことがある。
が、彼はそれよりももっと白い。
抜け落ちたように、色が無い。

不躾な視線に気付いた彼は、ゆっくりとした動作で小さなテトを見た。
テトはこの白いライオンに更に見入った。
その虹彩が、赤く輝いていた。
それは宝石の様で、白い色にはえていた。
配色はウサギの一種と同じだけれど、彼には王者らしい威厳と風格があった。

「きれー……。神様みたい」

意図せず漏れた呟きに、白いライオンは目を見張った。
彼は黙ったままだったが、下位の獣人に無礼であると顔をしかめることは無かった。
だからといって愛想よく笑う様子も無い。

「テト…!?」

ぴょこんと耳を動かしたテトは、反射的に尻尾をゆらゆらと泳がせた。

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あきゅろす。
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