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シリーズ・短篇

朝霞は驚いて思わず体を引こうとしたが、陽がそれを許してくれなかった。

「ミナミさん?……ミナミさん、本当、どうしたんですか?」

距離を置いたのがこんなに効果をもたらしたとは思えない。
一体何があったのかと朝霞は首を傾げ、泣きじゃくる陽の背を優しく撫でてやった。

「たすけて」
「うん、助けますから。だから、話してください」

追い詰めすぎて壊してしまったんなら、どんな形であれ責任はとるつもりだ。

「おねがい……おねがい……。おねがいだから…っ、おこらないで……?」
「わかりました。怒りませんよ」

今は我を通す気になれなかった。
彼があまりに切実に、泣いてすがってくるから。
恐がらせないように、と考えていた。

「怒りませんから。安心してください。貴方を助けますから」

背中を撫でてそう言い聞かせ、少し落ち着いてくると、シャツをがっちり掴んだまま体を起こした。

「こないだのは……本当にバカだった。だから怒られて当然だった」
「いえ、まぁあれは……」
「怒ってた?あれから、ずっと俺のこと怒ってたんだろ」

急にどうしたんだろう?といぶかしみつつ、朝霞は正直に言った。

「まぁ少しは。あ、でも!俺は貴方を泣かせるのが楽しみでもありますから、半分は楽しかったですよ」

びくりと怯えたかと思うと、陽はまた涙を流した。
フォローのつもりで言ったのが、フォローになってなかったようだ。

「いやっ、あのですね。俺は、貴方にちょっと気持ちの整理をしてもらおうと思って。だから一切貴方の周りをうろついてませんし、色々調べたりもしなかっ…………え?」

濡れた目をぱちくりすると、涙のしずくが溢れて落ちた。

「……本当、に?」
「ええ」
「一度も?誰かにやらせたりも?俺を怒ってない?何も仕掛けたりしてない?」
「何です……?それ」

朝霞の顔が強張り、陽はまたびくりと怯えて咄嗟に謝って怒らないでと頼んだ。

「怒りません。怒りませんから。何があったんです?俺が居ない間に、一体誰に何をされた」

つい怒りが言葉に滲み、また陽を怯えさせた。

「歯ブラシ、盗られて……」
「はぁあ?あぁ、すいません。続けて。貴方に怒ってるわけじゃありませんから」

びくびく怯える陽の肩を抱き寄せて、朝霞はその背中をぽんぽんと叩いた。

「ずっと、帰り道とか後をつけられてて……。今日は追いかけられた」

だから泣いていたのかと納得した朝霞は、生まれた疑問を口にする。

「それを、俺の仕業だと思ったんですか?誰か人にやらせたと?」

恐怖に耐えぐっと唇を噛むその顔を見て、舌打ちが出る。

「だって…!だって、前も櫛が無くなったしっ。合鍵を盗ったし……。またそうかと思って」
「前も!?俺は盗んでないって言ったでしょう。合鍵だって俺用に作ってから返したじゃないですか」

陽はハッと息を飲み、シャツを掴む手が震える。

「……無いんですか?合鍵」

ひくん、としゃくりあげ、涙が滲む。

「いい根性だ。俺が居ながらあれこれ盗んで、ミナミさんを恐がらせるなんて」

征服するのは、一人でいい。

朝霞は燃え上がる怒りを抑えてにっこりと笑みをつくった。

「安心してください。ミナミさんは俺が守りますから。他の誰にも、手出しはさせまんから、ね?」

利用されたって構わない。
この異常な感情を。
怯えて震える彼がやれと望むのなら。すがりついて頼るのなら。
道具にされたって構わない。
俺はその為にここまでやって来たんだから。

「恐かったでしょう。でも、もう大丈夫ですからね?」

陽は安心したように、そっとシャツから手を放した。
そして朝霞は、陽に優しく微笑みかける。

「ストーカーはもう、居なくなりますよ」

言うと、陽はじぃっと朝霞の目を覗き込んだ。

「ん?約束は守りますって。ミナミさんが頼ってくれたんですからね。それが俺の望みでしたから」

立とうとした朝霞のシャツを掴んだ陽は、勇気を出して口を開いた。
なのに、言葉がなかなか出てこない。

「あ、の……」

朝霞の言葉から、覚悟が見えてしまったから。
引き止めずにはいられなかった。

「何処に行くの?」

知ってる。
朝霞が発した言葉の意味を。

「何をするの?」
「何って……。だからミナミさんのお願いを」
「嘘だ」

朝霞は優しい嘘なんて、つかないくせに。

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あきゅろす。
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