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シリーズ・短篇

「答えてください。これが詐欺だって思ったなら、その時の心境を」
「ごめんなさい、ごめんなさい」

謝るだけじゃわからない。

「貴方は、本物だって思ったから俺に泣いてすがったんでしょう?媚びて、俺の感情に訴えれば助けてもらえると思ったんでしょう?」

演技でも嬉しかったのに。

「じゃあ、貴方に告白したのが嘘だったって言うなら、俺が貴方を殺せない理由は無いじゃないですか」
「ごめんなさい…っ」
「貴方は色々知りすぎてるから、口を封じる必要があるのに。直接『詐欺か』なんて聞いたりして殺されるとは思わなかったんですか?」

彼はひくひくとしゃくりあげ、子供の様に泣き続けている。

「思ってなかったんでしょう……?殺されるって」
「ごめ…っ」
「背後をとられても気持ちよさそうにしてましたもんねぇ、貴方」

髪を乾かす間、猫の様に満足げに目をつむっていた。
その無防備な様が、信用してくれたようで嬉しかったのに。

「貴方本当は、詐欺だと思ってなかったでしょう?」
「わか、らなぃ……」
「俺が渡した水も躊躇わずに飲んでましたもんねぇ」

彼は今気付いたというようにハッとした。
それを見て、朝霞は心の隅でホッとしていた。

「詐欺だと思ってなかったんなら、どうして試すようなマネをしたんです」
「わからな…っ、わからない」
「違うって言ってほしかったんでしょう?本当に貴方が好きなんだって、聞きたかったんでしょう?」

彼はゆるゆると首を振って「わからない」と「ごめんなさい」を繰り返した。

「殺されないか確かめかったの?もし違ったら危ないと思わなかったの?」
「わからない、許して…っ」
「危ないとは思わなかったんだよね?そんな事まで、考えてなかったんだよね?」
「ゆるして……ゆるして……」

わからないは許さない。

「だって、ミナミさんは……」
「ぃや……いやぁ…っ」
「ただ俺に」
「ゃ、やだ……言わな」
「『好きだ』って言ってほしかったんだもんね?」

言うと、彼はいっそうしゃくりあげてぐしゃぐしゃに泣いた。

「最初からずっと好きだって言ってるのに、貴方はそうやって俺を試すんですね」
「ちがぅ、ちがうぅ」
「そんなに同性愛は抵抗ありますか?貴方の正義感が、道徳心が、そんなもの許しませんか」
「ちがっ、待……ってぇ」

従順になってくれたと……やっと心を開いてくれたのかと思ったのに。

「言ってください。許しを乞うなら」

答えを知っているはずだ。

「何故、俺に好きって言ってほしかった?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。ゆるして…っ」
「ダメです。言って。許しませんよ」

答えはある。
すぐそこまで来てる。

「貴方が聞きたかった言葉は、いつだって用意されています」
「だって…っ」
「ほら。何故?」

手をのばせ。

「わからない……」
「あとは貴方次第だ。わかりますね?」
「……おねがい。おねがい、ゆるして……」

そんなに嫌かと考えて、それもそうかと思ってしまう。

「そうですか……」

だって自分は、貴方が嫌う犯罪者だから。

「そんなに俺が嫌ですか」
「ちがう、ちが……」
「違わない。貴方は俺が嫌だから……到底受け入れられないからこうして抵抗するんでしょう」

貴方自身に従順になれば、答えは口にできるはずなのに。

「どうしてそんなに泣くんです」

何故、そんなに悲しむ?

「いつだって拒絶するのは貴方でしょう。何が悲しいことあります」

俺は貴方を追いかけて、こうして手に入れようと必死なのに。
なのに何故、泣きじゃくって謝るんだ。

「ごめんなさい、ゆるして」

許されたいのはこっちなのに。
貴方が俺を許してくれれば、俺は貴方に受け入れられる。

「ミナミさん。許してください。俺は貴方を、許せない」

とても解放してやれない。
貴方がそれを異常だと嫌っても。

「貴方が許してくれるまで、こうして朝まで、貴方を責め続けますよ」
「おねがい……。ゆるして。ゆるして……」
「さぁ。ミナミさん」

認めて。

「俺の“言葉”を聞きたいんでしょ?貴方が求めたんでしょ?」

だから、貴方の素直な言葉を。

「聞かせてください」

貴方の気持ちを、聞かせてください。

「そうすれば、すべてうまくいきますから」

想いは結実する。

「だから、ね?」

こんなに願い、求めてるのに。

「俺を許して。入れてください」

罪なら百回でも千回でも、気の済むまで謝るから。

「貴方の声を聞かせてください」

彼は許しを乞いながら、結局朝霞を許しはしなかった。

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