シリーズ・短篇 3 「答えてください。これが詐欺だって思ったなら、その時の心境を」 「ごめんなさい、ごめんなさい」 謝るだけじゃわからない。 「貴方は、本物だって思ったから俺に泣いてすがったんでしょう?媚びて、俺の感情に訴えれば助けてもらえると思ったんでしょう?」 演技でも嬉しかったのに。 「じゃあ、貴方に告白したのが嘘だったって言うなら、俺が貴方を殺せない理由は無いじゃないですか」 「ごめんなさい…っ」 「貴方は色々知りすぎてるから、口を封じる必要があるのに。直接『詐欺か』なんて聞いたりして殺されるとは思わなかったんですか?」 彼はひくひくとしゃくりあげ、子供の様に泣き続けている。 「思ってなかったんでしょう……?殺されるって」 「ごめ…っ」 「背後をとられても気持ちよさそうにしてましたもんねぇ、貴方」 髪を乾かす間、猫の様に満足げに目をつむっていた。 その無防備な様が、信用してくれたようで嬉しかったのに。 「貴方本当は、詐欺だと思ってなかったでしょう?」 「わか、らなぃ……」 「俺が渡した水も躊躇わずに飲んでましたもんねぇ」 彼は今気付いたというようにハッとした。 それを見て、朝霞は心の隅でホッとしていた。 「詐欺だと思ってなかったんなら、どうして試すようなマネをしたんです」 「わからな…っ、わからない」 「違うって言ってほしかったんでしょう?本当に貴方が好きなんだって、聞きたかったんでしょう?」 彼はゆるゆると首を振って「わからない」と「ごめんなさい」を繰り返した。 「殺されないか確かめかったの?もし違ったら危ないと思わなかったの?」 「わからない、許して…っ」 「危ないとは思わなかったんだよね?そんな事まで、考えてなかったんだよね?」 「ゆるして……ゆるして……」 わからないは許さない。 「だって、ミナミさんは……」 「ぃや……いやぁ…っ」 「ただ俺に」 「ゃ、やだ……言わな」 「『好きだ』って言ってほしかったんだもんね?」 言うと、彼はいっそうしゃくりあげてぐしゃぐしゃに泣いた。 「最初からずっと好きだって言ってるのに、貴方はそうやって俺を試すんですね」 「ちがぅ、ちがうぅ」 「そんなに同性愛は抵抗ありますか?貴方の正義感が、道徳心が、そんなもの許しませんか」 「ちがっ、待……ってぇ」 従順になってくれたと……やっと心を開いてくれたのかと思ったのに。 「言ってください。許しを乞うなら」 答えを知っているはずだ。 「何故、俺に好きって言ってほしかった?」 「ごめんなさい、ごめんなさい。ゆるして…っ」 「ダメです。言って。許しませんよ」 答えはある。 すぐそこまで来てる。 「貴方が聞きたかった言葉は、いつだって用意されています」 「だって…っ」 「ほら。何故?」 手をのばせ。 「わからない……」 「あとは貴方次第だ。わかりますね?」 「……おねがい。おねがい、ゆるして……」 そんなに嫌かと考えて、それもそうかと思ってしまう。 「そうですか……」 だって自分は、貴方が嫌う犯罪者だから。 「そんなに俺が嫌ですか」 「ちがう、ちが……」 「違わない。貴方は俺が嫌だから……到底受け入れられないからこうして抵抗するんでしょう」 貴方自身に従順になれば、答えは口にできるはずなのに。 「どうしてそんなに泣くんです」 何故、そんなに悲しむ? 「いつだって拒絶するのは貴方でしょう。何が悲しいことあります」 俺は貴方を追いかけて、こうして手に入れようと必死なのに。 なのに何故、泣きじゃくって謝るんだ。 「ごめんなさい、ゆるして」 許されたいのはこっちなのに。 貴方が俺を許してくれれば、俺は貴方に受け入れられる。 「ミナミさん。許してください。俺は貴方を、許せない」 とても解放してやれない。 貴方がそれを異常だと嫌っても。 「貴方が許してくれるまで、こうして朝まで、貴方を責め続けますよ」 「おねがい……。ゆるして。ゆるして……」 「さぁ。ミナミさん」 認めて。 「俺の“言葉”を聞きたいんでしょ?貴方が求めたんでしょ?」 だから、貴方の素直な言葉を。 「聞かせてください」 貴方の気持ちを、聞かせてください。 「そうすれば、すべてうまくいきますから」 想いは結実する。 「だから、ね?」 こんなに願い、求めてるのに。 「俺を許して。入れてください」 罪なら百回でも千回でも、気の済むまで謝るから。 「貴方の声を聞かせてください」 彼は許しを乞いながら、結局朝霞を許しはしなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |