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シリーズ・短篇

「ありがとう、マルセロ。でも、どうしてあんな言い方するの?」

その方が手っ取り早いのかもしれないが、嘘でも人前で恋人の様な振る舞いをされるのは照れ臭い。

「いやー、だってエリオだよ?『イリス』の聖域みたいな絶対不可侵の最強イケメンのつもりで群がるネズミをしっしっ!ってやってみたいじゃん」
「……なにそれ」

エリオのことを言いながら、自分がそうだと勘違いさせていい気分になったって見た目はマルセロそのままなんだから意味がなさそうだが、エリオのつもりになることで自信満々に大きな態度に出られるのかもしれない。
しかしエリオがまったく近寄る人を相手にしないので遠巻きに見守るしかないのはわかるが、それを聖域と称するとは驚きだった。
そんなエリオとリコが付き合っていると知れたらどうなるのだろうと、リコは少々不安を覚える。
ただ、きっとマルセロは態度を変えないだろうと思う。
だからこそマルセロにはきちんと自分の口で伝えたいのに、恥ずかしくて何て言っていいかわからなくて、いまだ切り出せていない。

仲間に小突かれて笑うマルセロの袖を引いたのはリコではなく、輝く金髪の巻き毛が似合う美しい青年だった。
アイスブルーの宝石をはめ込んだ様な猫目に、つんと尖った細い鼻。
リップをしたみたいにつるんとしたピンクの唇はにっこりと笑みをつくっている。
ねぇ。と甘えた声を出し、体を寄せて媚びる。
痩せて薄っぺらで貧弱なだけのリコと違い、引き締まったスタイルのよさが強調された格好をしている。
背伸びをしてマルセロに顔を寄せたら、腰のあたりの肌色が覗く。
自分の魅力を理解し、それを利用できると自信がある人の振る舞いだ。

「悪いけど、そんなつもりでここ来てないから。別にエリオのマネするわけじゃないけど。お相手を見繕うなら他に行って?」

マルセロがエリオのマネをしたいなら、彼の言動に僅かでも反応を見せた時点で失格だ。
マルセロは冷ややかにあしらうことをせず、いつもの笑顔でひらひらと手を振る。

「そんなつもりじゃない。ずっと気になってたんだ、あなたのこと。いつもお友達と一緒に飲んでるから話し掛けにくかったんだけど……」

ちらりと遠慮がちに視線を流した先が自分で、リコは戸惑ってマルセロに目ですがる。
が、マルセロも彼が何を言いたいのかわからず首をかしげた。

「ねぇ。この子と付き合ってるの?だからボクはダメってこと?だってこの子、エリオのお気に入りなんでしょ?」
「そ。エリオのお気に入り。だからリコとは付き合ってないし、そもそも俺は飲みに来てるだけだから。例え真剣なお付き合いの申し込みだとしても受け付けないよ」
「どうしてぇ?ボクの何がいけないの?」

容姿に自信があるだけにフラれるのが納得がいかないようで、何で何でとしつこく食い下がっている。

「恋人がいるの?ボクよりいいってことだよね?そんなに一途なんだから。もしこの子と付き合ってるんなら、ボクの方が絶対満足させてあげられる。見た目だって負けてないでしょ、ね?エリオのお気に入りをモノにするより、ボクとシた方が気持ちいいよ」

否定されても、彼はまだマルセロとリコの関係を疑っているようだ。
彼と比べてリコが劣っているのは認めるが、マルセロがエリオへの当てつけでリコと親しくしてるような言い方には納得いかなかった。
何を言っても聞く耳を持たない彼に困り果てたマルセロを助けたいのは山々だが、口出しするとややこしくなりそうなのでリコはおろおろしながら黙っているしかない。

「リコ」

一気に安心感をもたらす、抑揚のない低い声。

「エリオ!」

ぱっと顔が綻びて思わず抱きついてしまったのは、根拠もなくこれでこの場がおさまると救われた気がしたからだ。
しかし、喜びが落ち着くと甘えが出た。
不安が顔に表れてしまったらしく、頬に手をそえてじっと見下ろしている。
エリオは表情を動かさないまま、説明を求めマルセロへと視線を投げた。
仲間や、そこにまとわりつく青年には一切目もくれず。
マルセロは困った顔でかたわらの青年を一瞥すると、溜息まじりに謝った。

「悪いな。彼のストーリーじゃ俺はお前への当てつけでリコを狙ってるらしい。いや、付き合ってるってことに、か?」

ぎゅっと眉間に力を込めて騙されまいと睨んでいる彼を初めて、エリオが見る。

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