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シリーズ・短篇
〈第二夜〉1
エリオの家に何度か泊まっても、最後まで“した”ことは未だない。
とはいえ。触れ合って極めるだけでリコにはそれほど重大な交わりだった。
普段から言葉がそう多くないエリオは、リコと過ごす時も多弁になることはなかった。
それについてリコは心を許していないからだと傷付くことも、責めることもしない。
彼がほんのり微笑みを浮かべるのを見ればその必要がないとわかるからだ。
言葉を尽くさずとも、彼に愛されているのがわかる。
けれどエリオは、最後までしないことに関してわざわざリコに説明してくれたのだ。
リコは問い質さなくとも構わないと思っていたのに。
愛されているのはわかってるし、それにも意味があるのだろうと納得していた。
いつか。そのうち。経験を重ねていけば自然と二人はそこへ至るのだと思っていたから。

初めの夜、エリオは震えるリコに対して触れ合うだけだから大丈夫だと言った。
自慰を助け合うぐらいだと想像すればいい、と。
そして実際その様になった。
次の時にはもう一歩進んでみようと言って、前だけでなく後ろも弄られるようになった。
そして何度目かの夜に、決してリコに踏み込むのを躊躇っているわけではないと言ってくれたのだ。
挿入するにはそれなりの準備があって、気持ちがあってもいきなり挑めるものではない。
そもそもすべてのカップルが挿入を好むわけでもないのだと聞いて納得した。
同性でする場合に何処を使うかを知っていた程度のリコには、具体的な知識が欠けていた。
それを見越してエリオは、リコが余計な疑心暗鬼に陥らないように配慮してわざわざ説明してくれたのだ。
挿入に至らなくたって愛情を疑ったりしないし、それが好きになれなかったら無理強いする気はないとはっきり告げられても落胆はしない。
けれど、やはり、そこへ至るためにエリオがリコを気遣いながら手をかけてくれているというのは嬉しいことだった。
深い愛情をますます感じたのだ。

エリオ宅に泊まることが必ずしも営みを意味しないのは、リコにとってそこがバー『イリス』と同じ、避難所の役割を持っているからだ。
高校生の頃からアルバイトで少しずつお金を貯めてきた。
大学へ行く気がなかったリコは、就職を選び貯金を持って家を出るつもりでいたのだが、様々な可能性を捨てずエリオが情報を与えてくれたことによって進学を決めた。
結果、今もアルバイトを続けながら実家暮らしの学生生活を送っている。
高校でも自宅でも立場がなく居心地が悪い思いをしていたリコが逃げ込んだのがバー『イリス』だ。
エリオとはそこで出会ったのだが、付き合うようになってからは彼の家に行ってそのまま泊まることが増えている。

寡黙で表情も動かない、ドライなエリオは、硬質なバリアで人を寄せ付けない。
寄ってくる者にも顔色ひとつ変えず、振り払う素振りさえ見せない。
いっそ人間味が感じられないほど。
孤高で、ミステリアス。
リコに対しては初対面の時から親切だったから、それほどの畏怖はない。
ただ、彼からイメージする部屋の様子と実際の部屋はまったく違ったのが驚きだった。
物が少なく生活感がない部屋を想像していたのだが、その真逆。
黒い机の上はパソコンの周りにかろうじてスペースがあるだけで、沢山のファイルや書類に本、CDなどが積み重なっている。
イスから手が届く範囲にできている山脈は、恐らく机の上に置場がなくなったために築かれたのだろうと予測できる。
机の下にも物がぎっちりと詰まり、足が入る隙間だけ確保されているようだ。
ベッドサイドにも小山ができている。
だが彼なりに秩序があると思えるのは、食べ残したものや食器類は放置されていない。ゴミが溢れて足の踏み場もない汚さとは違うのだ。
キッチンは綺麗だし、ローテーブルの方はすっきりしている。
ベッドの上にも物はなく、クローゼットの中だってきっちり整理されているから、片付けられないわけではないようだ。

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あきゅろす。
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