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シリーズ・短篇

あの時、思いきって『イリス』に来なければ、高校をやめたくなっていたかもしれないとリコは思う。
やめなくても、これからまた四年間大学に行って学生をするのは嫌だと思っていただろう。
エリオは意見を押しつけることはなかった。
けれど、可能性を広げるために惜しみなく情報を与えてくれた。
そのお蔭で学生をまだ続けることも、どの大学を選ぶかも決めることができた。
エリオは恩人だった。
『イリス』に来た時から、彼はリコを導いてくれた。

エリオと顔を突き合わすのはこわいと言う人が居る。
目付きの鋭さが原因で、睨んでる印象を与えるのは事実だが、それじゃない。
多くの人は言う。
「見透かされるみたいで恐い」と。
確かに、初対面の時にリコも感じた。
でもはっきりと「見透かされるみたい」とまで感じることができなかった。
不躾にじっと見つめてしまったのは、その不思議な眼差しが何なのか知ろうとしたからだ。
目の前に居るのに、遥か遠くから見られている気がする。
見られているのに、自分を突き抜けて遥か遠くを見ている気がする。
言葉少ななのに、視線は多くを語っている気がする。
吸い込まれそう。
そんなエリオに恐れを抱く人も居れば、好意を抱く人も居る。
それは当然のことだと思う。
エリオはかっこいい。
エリオと話したくて近寄ってくるのに、エリオはろくに返事もしない。
あとになって、リコだけが特異なのだと聞いた。
他はあんな風にみーんな無言で相手にしないのだと。
どうやらリコは、気に入られたらしい。
そう言うけれど、そう思わない人が。信じたくない人が居る。
鉄壁のガードを乗り越えた者が居るのなら、希望が無いわけではないと。
マルセロは「ムリだ」と笑ったが。
リコが嫉妬の対象になり攻撃されると、エリオがかばい、守ってくれた。
どんな時も。
エリオは特別にそばに置いて、優しく導き、守ってくれた。
その安心感が心地よくて、エリオに甘えすぎてしまう。
リコの人生は彼に支えられている。
依存、と言えるほど。
迷惑でないか。負担でないか。
少し距離を置くべきか。
自分の成長のために。
自分なりに考えて、「お前が決めたんならそれもいいんじゃないか」とマルセロの後押しももらって、決めた。
つもりが、態度の変化を見抜かれた。
決意を告げると、何故そんな考えに到ったのかまで白状させられた。
そして「つまらないことを考えるな」と一蹴された。
それが彼の優しさだと思う。
だから結局、いまだにこうしてエリオにべったり。
思いきり甘えてしまっている。
最近では虫よけと称して恋人の様に接するから、勘違いしてしまいそうになる。
エリオがとても優しくて、大きな心を持っているから。
特別なのは、そういう意味だと思ってしまう。


ぐっと腰を抱く手に力がこもり、半歩カウンターから離された。
そして半身になったエリオに抱き寄せられた。
こんな時はエリオの虫よけか、もしくはリコの。
気になって見上げると、優しさを帯びた眼差しが鋭いものに戻り、こちらを見ている客に向けられていた。
その攻撃的な視線で、リコの目隠しだったと悟る。
エリオは自分の時は顔色を変えず、虫を振り払う素振りも見せない。
存在をすっかり無視し、リコの相手を続けるのだ。
戸惑った様子の客だが、それでもチラチラとリコの顔を覗いている。

「……リコ?」

ぴくりと反応して顔を向ける。
と、相手の緊張がふっと和らいだ。

「よかった」

相手はリコを知っているようだが、リコはすぐにピンとはこなかった。

「すみません。高校の同級生だったんです」

威嚇するエリオは、説明されるとリコを見下ろした。
その真偽を確かめるためだろうが、いまいちピンときてない様子を察したようで、怪訝な顔で男を見やる。
男がエリオの視線を気にしてるのは、リコと話したそうにしているからだろう。
エリオに聞かせたくないことでもあるのか。
だが、エリオの警戒がとけないと悟ると、諦めて話しはじめた。

「最近のリコの話を、ちょっと前に耳にして……」

話しながら、男はエリオの顔色を気にしていた。

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