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シリーズ・短篇

真っ直ぐな黒髪と同色の光彩、射貫く様な鋭い眼差し。
すっと通った鼻筋。
愛想でも笑みをつくらぬ薄めの唇。
感情をうつさぬ相貌が、リコに向けられる時だけゆるむ。
硬質なバリアを張り出して、作り物の様な動かない顔をしてるのに、ほんのりやわらかさを見せる。
エリオが微かでも笑みを見せる。
リコはその特別さを知らず、無邪気に彼を慕う。

笑うようになってから、リコは可愛くなった。
本来の魅力が輝いて、ただの貧弱な子供ではなくなった。
手を出してみたいと望む者が現れ、割と真面目なアプローチをされるほどに。
リコは自分がうまく断れていると思っているようだが、実はそうじゃない。
隣に居るエリオが、常に睨みをきかせているからだ。
警戒心を隠さず、無言の圧力をかけて示す。
腕を引いて相手と距離をとらせ、肩や腰を抱いて更に我が物と突きつける。
お気に入りで済むか。
そう考えるのはマルセロだけではない。
そうなった時、再び「何故?」と考える。
リコの何処に、それほどの執着を見せるだけの魅力を見出だしたのか。
庇護してやるだけ以外に、そこまでの独占欲を見せるほど、何がエリオの心を動かしたのか。

無垢さか。
それとも子供だからなのか。
しかしそれは危うすぎる。
それに、リコの無邪気な態度が変わらないところを見ると、成人して一年がたってもエリオは想いを告げていないと予想できた。
それじゃあ、何が……?
マルセロには理解できないが、エリオの気持ちを尊重して、できる範囲でフォローはしてやれる。
リコが一人で居るのを見つけたら、マルセロが保護者代理を請け負ってやる程度には。
気まぐれの親切心だ。
無視するほど彼らが嫌いなわけではないし、関わることに躊躇するほど臆病なわけでもない。
恐らくきっかけはエリオと同じ。
やれる力があって、それを求める相手が目の前に居るから。
リコと友人のようになってしまったのは、そんな下心のカケラも無い単純な親切心をエリオが見抜いたからだろう。
マルセロが保護者代理をしても、エリオが何を言うわけでもない。
目を合わせれば察し合えるが、別に確認し合うことに意味を感じない。
友情を築く気は互いに無い。
エリオもマルセロも居なかった時まで考えて配慮してやるまではしない。
自分の都合を犠牲にする義理はない。
だが、今日は運がよかったらしい。
仲間に呼ばれて店を出ようと決まった時、タイミングよくエリオがやって来た。

マルセロはエリオと目配せしただけで、さっさと店を出て行った。

「あっ、エリオ」

話し相手になるマルセロが居なくなり、つまらなそうに口を尖らせていたリコの顔がぱっと輝く。
それを認めたエリオも、微かに口角を上げた。
するっと背中を撫で、腰を抱き寄せる自然な動き。

「待ったか?」
「んーん。マルセロが居たから。話してた」
「そうか」

リコは疑問を持っていない。
エリオがリコを我が物の様に振る舞うことに、抵抗感を持っていない。
無垢故に。
純粋に、エリオを面倒見のいいお兄ちゃん的存在としてすっかり安心してしまっている。

「今日はコーラなんだな」

不必要に顔を寄せても、不快感を見せない。

「そう。炭酸はあんまり飲まないんだけど、コーラはたまーに飲みたくなるんだぁ」
「それならあんまり飲まないトマトジュースもたまには飲んだらどうだ」
「いやーだ!やだー!ケチャップはいいけど生とジュースは無理!」

ぶんぶんと首を振って拒否するリコに向けられる眼差しに甘いものが混じっていると、まわりが見ればわかるのに、きっとリコは知らない。
エリオの優しさに甘えるのがエリオにとって酷か、喜びか、周囲にははかりかねる。
エリオが一歩踏み込むのが先か、リコが気付くのが先か。
このまま関係が動かないのか。
それが『イリス』での楽しみのひとつになりつつある。

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あきゅろす。
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