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シリーズ・短篇
16
集落へ戻ると、広場の火のまわりにまだ人が多く残っていた。
二人の姿を認めるなり取り囲んで、無事を確認すると口々によかったと安堵の言葉を漏らす。

「皆さんも無事で、本当によかったです」

自分を狙って来たのだから、責任を感じずにいられない。
申し訳ない気持ちが言動に表れたのだろう。
皆、気にする必要はないと慰めてくれた。


横になってもなかなか眠れないのを見かねたイライアスが抱き締めて一緒に横になってくれると、まもなく睡魔がやってきた。
次に目覚めた時も背中から腕が巻きついていて、寝惚けながら寝返りをうって抱きつき、また深い眠りに入る。

髪を撫でられる感覚が、意識の浮上を認識させる。

「起きたか」

両手で目を擦り、寝起きでまわらない口でもごもごと朝の挨拶。
すると、フッと笑う息遣いがした。

「今日は破壊された家の修繕や荒らされた畑の手入れなんかで忙しくなる。お前はちびどもと森に行ってきてくれ」
「はい。またオレンジをとってきます」
「あぁ、頼む」

役に立てることが嬉しい。
ひっそりと笑みを浮かべていると、あごをとらわれて口づけられた。


子供達と森から戻ってくるなり、焦った様子の狼達にフランシスが呼ばれた。

「お嬢サン!よかった、早く来てくれ!」
「なんです?」

何事かと狼狽えるしかないフランシスをぐんぐんと引っ張っていく。

「オレらより猫には詳しいだろう!?」
「はっ?猫……?」
「畑の中に転がってんのを見つけたんだ」

昨夜の騒ぎに巻き込まれたならもっと早くに発見されているはずだが、見張りが立つと増やされるかがり火が倒されてしまっていたし、畑の中に小柄な猫の獣人が倒れているのに気付かなかったのかもしれない。
とはいえ、手当てや看病の方法ならば彼らの方がずっと知っているはずだし、同じ猫科でも山猫のフランシスより猫は彼らの方が身近だろう。
それでも、役に立てることがあるなら。

「イライアス」
「来たか。フランシス、頼む」

イライアスは抱えていた布のかたまりを差し出した。
何かわからないまま手を出した、その時、それが何かがわかった。

「これ……」

猫は猫でも獣人ではなく、動物の猫だ。
それも生まれて間もないような小ささ。
片手に乗るほどしかない。

「弱ってる……?」

鳴く元気もないようだが、くるまれた布の中でもぞもぞと動くことができてるだけまだ希望がありそうだ。

「助かりそうか?」
「わかりません。とりあえずこのまま体温が下がらないようあたためてみるしか……」

しっかり布にくるんで抱えると、赤ん坊を抱いている格好になる。
それは皆にもそう映ったようで、イライアスとの間に子ができたようだと笑った。
だからというわけではないが、イライアスは今日はもうそいつについててやれと任せて仕事に戻った。

風を避けるのに屋内に居るより、布にくるんでいるので外に出て日向に居た方が猫があたたまりそうだ。
母乳のかわりに何をやったらいいのだろうと考えながら、腕の中の子猫を眺める。
顔を上げると、畑の向こうに居るイライアスと目が合った。
彼もこちらを見てくれていたのだというのがくすぐったい。
照れたのを見て、ふっと笑ったのが離れていてもわかった。
愛されている。
その実感は、これが幸せなのだと教えてくれる。

ふわふわのベッドに寝られなくても、熱いシャワーを浴びられなくても、お金がなくたって、こんなに心安らかで、満たされている。
この子が元気になったら、母に手紙を出そう。
別れ際に泣いてくれた母に。
今はとても幸せだと伝えよう。
僕はここで、愛する人に愛されて、新しい仲間と生きていくのだと。

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