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シリーズ・短篇

スラムを歩くのに三つ揃いのスーツ姿では目立つし普段着向きではないので、間に合わせにと急ぎで服を一着作ってもらえたのは助かった。
いつまでもイライアスに借りているのは申し訳無い。
けれど、何故それが群れの中では目につかないワンピースなのか。
女性が着るようなふわっと広がったスカートでないからローブと言うべきかもしれない。
シャツの上からかぶって着ると、膝下くらいまで丈があった。

ついていくだけでいいと言われたが、力が無いなりにできる範囲で手伝いたいと申し出た。
しかし、とんでもないと断られてしまった。

「ほら、そんな困った顔しないで。堂々としててくれりゃあいーんすよ」
「そうそ。お嬢サンはうちの華っすから」

そう嬉しそうに笑うと、どうだと誇示するように周囲を見回す。
要人を守るかのように取り囲んでそんな態度をとると何事かと目を引いてしまう。
山猫だと気付かれている様子は見えないが、ここに居る猫達とは違うとわかるようで、尚更人目を集めている。

「まずはお嬢サンの靴だ。イライアスに頼まれてるからな」
「え、そうなんですか?」
「その靴じゃあ動きにくいだろうって」

考え無しに飛び出してきてしまったツケだ。
何もかも彼らに世話になっている。
知らなかったとはいえイライアスのもとで寝起きすることになったのも、思えば特別なことだ。
それはやはりフランシスが山猫だから、利用価値があるという判断があったのかもしれない。
落胆はしない。
群れのみんなの親切や優しさは本物だと感じられたし、共存とはそういうことだとも納得している。

木の骨組みにトタンを貼り付けた小屋が密集する最貧民の地域を抜けたら、家らしい造りの建物が続く地域に入る。
イライアス達と会えたのはこのあたりだった。

靴屋に入ると、フランシスを見た店主のオヤジが目を丸くした。
しかし余計な口はきかず、フランシスが選ぶのを離れてじっと見ていた。

「このサンダルならいいかも」

足の甲の部分は二本の太いベルトで調節できるし、足首はしっかり包むようにできてるからストラップで擦れるような心配も無い。

「お嬢サン、はいてみたら?」
「いいですか?」

店主はじろじろ見ていたのを申し訳なく思ったのか、気まずそうに顔を背けたが、曖昧に声を漏らして頷いた。
脱いだ靴はさっと狼の一人が預かった。
もう一人はサンダルをはくフランシスの背に手をそえ、一人が肩を支える。
それらが自然と行われ、揶揄ではなく本当にお嬢さん扱いなのだなと実感する。
彼らにしてみたら幼い子供のように頼りなくうつるのだろうからしかたない。

「あぁ、いい感じです。これがいい」

フランシスがにこりと笑って顔を上げると、視線を戻していた店主がまた目を見張る。

「決まりだな」
「よし。オヤジ、これをもらう」
「このままはいてくといいよ、お嬢サン」

異質な存在が目立つから奇妙に思われているだろうと思っていたが、狼達は相変わらずフランシスを見せびらかして楽しんでいるようで、とても自慢げだ。
道行く人が「キレイな毛並みの猫だ」とか、見たことない美人などと呟くのを彼らは笑いながら聞いていた。
認められる嬉しさももちろんあったが、何より彼らがフランシスは俺達の仲間だと誇らしく思ってくれているのが嬉しかった。


森の集落へと戻るなり、話題はフランシスになった。

「いやぁ、鼻が高い!」
「こんなに気分がいいとはな。クセになる」

フランシスを見て人々がどんな反応をしたか。そしてそれがどれほど快感だったかを聞かせてみせると、男も女も喜色を浮かべた。
子供を押しのけ、どんな調子だったと夢中になってたずねるのだ。

「猫じゃなくとも違いがわかるらしい。やはりお嬢サンは別格さ」
「そうさ!どうしてこんなところに居るのかって顔してたぜ」

わいわいと騒ぐ狼達みんなに聞かせるような大声を張り上げ、功績を褒めろとばかりに叫ぶ。

「イライアスが見つけた!イライアスが世話してるんだって言ってやったんだ!」

手を叩いて笑い、よくやったでかしたと口々に称賛する。
きっと彼らは自分達以上に、イライアスの威厳や名声が重んじられることを喜ぶのだ。
だからこそ、イライアスが受け入れたフランシスを認め、彼に敬意を払うフランシスを受け入れてくれる。

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あきゅろす。
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