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シリーズ・短篇
10
日が暮れる頃になると、集落の中央のひらけたスペースに火がともされる。
煮炊きができるよう石を丸い形に置いた炉で、今はそこに大きな鍋が置かれている。
夜の間ずっと火を絶やさぬまま、ここに交代で見張りが座る。
狩りから戻ったイライアス達に嬉々として今日の出来事を語って聞かせるまわりで、また同じような騒ぎが起きている。
一度聞いたはずなのに、彼らは興奮して喜んでいる。
フランシスはその輪に入るのを遠慮し、鍋を見たり火の番をしている女性達のそばに小さくなって座っていた。

「うっとうしいかい?」
「え?」
「英雄の様に担がれるのがさ」

女性はフランシスをじっと眺めて言った。
そばで一緒に鍋を見たり、他の用にかかっている人、火を見ている男の子も、目線は違っても皆こちらに意識を向けているのがわかった。
フランシスは不思議に思い首を傾げ、大騒ぎする輪を一瞥した。

「皆さんが僕を認めてくださるのは、とても嬉しく思っています。でも、英雄の様に担がれているのは僕じゃないですよね。危ないところを親切に保護してくれて、僕なんかをここに一員として受け入れる決断をしたイライアスを皆誇らしく思ってるんですよね?」

こうして放り出されたら一人では何もできない山猫を、イライアスは拾ってくれた。

「僕が注目されたから皆さんが喜んでくれてるーなんて、なんだか傲慢で……図々しい気がします。仲間意識を持ってもらえてるんだと感じられるのは嬉しいですけど、でも……。皆さんがイライアスの威厳とか、名誉とか……そういうものを何より尊んでいると伝わりますから」

鍋の煮える音や火のはぜる音を聞きながら、うつむいて、縫ってもらった服の裾をもじもじといじる。
自分が貧弱で頼りなく、ちっぽけな存在だと自覚しているからだ。

「そこまで皆さんに尊敬されて、慕われるイライアスってやっぱりすごいんだなって……噛み締めてました。僕にできる仕事だって、結局イライアスが見つけて教えてくれたし……」
「フランシス」

名前を呼ばれるまで、騒ぎが静まっていることに気付かなかった。
思いを整理して言葉にするのに集中していて、背後にまで気がまわらなかった。
彼が動くと周囲が黙するのは、その挙動を重んじ、敬意を表しているからだ。
後ろめたいことを話していたわけではないが、意識せず聞かれていたことが恥ずかしくて頬が熱くなる。
手を差しのべられたらとりたいのに、ニヤニヤして見られていると体が強張ってしまう。
ぎこちない動きで手をのばす。
高い体温の大きくぶあつい手が細い指先をつまみ、優しく加わる力に誘われて立たされる。

「靴はどうだ」
「あっ、そうだ。ありがとうございます。すごく楽です」

イライアスが帰ってからすぐに皆に囲まれてしまったので、お礼を言う機会を逃していた。
よかったと頷くイライアスは手を握ったままで、ますます頬が熱くなっていく。
多くの目がある前でイライアスとこうして手を握っているだけでも照れくさいのに、真っ直ぐな目で見つめられると引き寄せられてしまって、見つめあう格好になってしまう。
何か喋ってごまかそうとするが、何も思い浮かばない。
どうしてこんなことになっているのか、戸惑いを覚える。
イライアスの隣に引っ張っていかれて、ようやく注目から解放されたのはいいのだが、何故?と理由に気をとられる。
話すわけでもないから、そばに座っていろということだろうか。
イライアスの面子を立てるのに役立つから重用されるのでも、彼の寵愛を受けるのは特別なことに思えて光栄だし、嬉しく思う。

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