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シリーズ・短篇
12
「やぁ。どうしたの?クローディア」

クリスは震える手で髪をかきあげ、声が揺れないようきつく拳を握りしめた。

「君から連絡してくれるなんて。ふふっ、そうだね。僕もしてないか。ごめん。久し振りだね?挨拶するの忘れてたよ。突然の連絡でびっくりして。いきなりどうしたの?なんて」

視界が滲みだして、まずい。と両目を閉じる。

「えっ、それはおめでとうだね!ここのところ忙しそうだったからね。認められた証だ。そんな遠くじゃなかなか会えなくなるけど、出世は喜ばしいことだよ」

クローディアまで、行ってしまう。
わかっていた。互いに。
これはいいきっかけだ。

「君には沢山甘えてしまったね。感謝してる。君には本当に、ずっと支えられてきたよ。君と出逢えてよかったと思ってる。うん、そうだね。本当だ。君とは強い友情で結ばれていたんだと思う」

卒業だ。
クローディアとはまた会うこともあるだろうけど、その時は友人としてだ。

「ふっ、そうだね。一生会えないってわけじゃない。元気で。君のような友人を持てて誇りに思ってるよ。うん、またね」

自分の過ちに気付いた途端、それを待っていたかの様に別れが訪れた。

誤解していた。と謝って、きちんと言葉を尽くして説明したら、ギルバートは許してくれるだろうか。
例えすべてが手遅れでも、せめて彼の兄としての愛に感謝はしよう。
それで一人きりになってしまうとしても。

力のゆるんだ手から、電話が落ちた。

「……さん…っ」

そういえば、しばらく会いに行ってない。

「お母さん…っ」

どんな花を持っていってあげよう。
華やかな薔薇が好きな人だったけれど、たまにはすみれもいいかもしれない。

「僕…っ、一人だ…!」

膝にぼたぼたと涙がこぼれて、シミが広がっていく。
いけない。
この後まだ仕事に戻るのに。
これじゃあギルバートにいじめられて泣いたと思われてしまう。
顔を洗って戻らないと。
けれど、涙が溢れて止まらない。

「クリスさん」

声と同時に背中に何かが触れて、びくりとクリスは顔を上げた。

「な、んで……。どうしてここに、君が……」

頬を濡らしたまま、その人を愕然と見つめる。

「いくら頭にきたとはいえ、いきなりあんな……。いくら何でも言い過ぎたと思って。謝りに来ました」

素直でいい子だから、何も悪くないのに反省して来てくれたのだ。
その純白が眩しくて、そしてとてもあたたかかった。
また熱い涙が頬をすべって流れていく。

「すみれ…っ」

すみれは自分のハンカチを出して涙を拭ってくれようとした。
しかしクリスは身を引いてそれを避けた。

「どうしてここに居るの?ここにはデパートのお客さんは入っちゃだめだよ?」

いつも恥じらいながら話し相手になってくれていたのは何故か。
クリスが不誠実な奴だと知って、どうしてそんなに怒ってくれたか。
そしてどうしてここまで謝りに来てくれたのか。
クリスは気付いていたけれど、それはすみれが素直で真面目な子だからだとすり替えて、無視した。
そして笑みをつくり、やんわりと突き放す。

クリスは涙を拭いながら、ふふっと笑って見せた。

「どうやって忍び込んだの?もっとセキュリティをちゃんとしなきゃダメだって言わなくちゃ」
「クリスさん。僕、本当はクリスさんのこと」
「すみれ」

わかっていて、遮った。
それを察して。

「クリスさんっ、言わせてください。僕はクリスさんのこと何も知らなくて…!」
「わかってる。いいんだよ。どんな理由があれ、いけない事はいけない事だから。君は何も悪くない」

言葉を続けさせず、先取りして言ってしまう。

「もし僕を許してくれるって言うなら、またあのカフェにお客さんとして行っていいかな?僕は、あの時間がとっても安らぐんだ。君の顔を見ながら、お話して、紅茶を飲む。とても幸せな時間なんだよ」

それをどうか奪わないでほしい。

「お客さんじゃなきゃいけないんですか?」

何故?と。
その気持ちが嬉しくて、胸が締め付けられる。

「君とそうなる理由が無い。君には僕が必要とは思えないし、君には僕なんか相応しくない」
「僕がクリスさんを好きってことだけじゃ理由になりませんか!?」

どうしてそんな、きらきらと目を潤ませて言うのか。

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あきゅろす。
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