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シリーズ・短篇
10
どんなに蔑まれるようなことをしていても、自分には自分なりの理由があるのだと自信を持てた。
けれど、それが大きく揺らぎ始める。

パーティだって楽しくなかった。
自分の中がぐるぐると渦巻き、混沌としてしまったら、自分がわからなくなる。
すると何をもとにして話せばいいかわからなくなり、言葉に詰まる。
一体、何をしてるのだろう。


「クリス。来い」

ギルバートは訪ねてくるなり、同僚達の前であごをしゃくってクリスを呼び出した。
そこには怒気が滲んでいて、お見合いの返事でも来たかと覚悟する。

「……はい」

知らず知らず、クリスはひっそりと溜息を漏らした。
今じゃなくても、帰ってからでもいいのに。
わざわざ自ら呼びに来なくとも。

話は予想通りだった。

「またうすら寒い口からでまかせで人を騙したのか」

何が孤独だと毒づいて、ギルバートは強い口調で続けた。

「よほど色遊びが好きと見える。獣同然の下劣な奴めッ。およそ理性的な人間とは思えない。しょせん金に意地汚い売春婦の息子よ!お前なんかと義理であっても兄弟と見られるのは我慢ならん!」

父は、母が金目当てで集ってくるハエぐらいにしか思ってなかった。
母は真実、父の愛だけを望んでいたのに。
ギルバートの母は早くに亡くなったから、いつまでも希望が持ててしまったのだろう。
そしてクリス自身も。
同じく母を亡くした者同士、理解しあい仲良くなれるのではと期待して、いつまでもだらだらと希望を捨てられずに来た。

「貴方は遂に、たったの一度も僕を理解しようとしてくれませんでしたね」
「何を生意気な!」
「一度でも僕が何故そうするか、僕の立場になって考えてくれたことはありますか?」

責めるように、真っ直ぐ目を見て言った。

そんなもの端からおもんばかる価値など無いと、ギルバートは吐き捨てるように言った。
そんな上等なものでもないだろう、と。

「僕はずっと心の何処かで、いつか貴方が気持ちに気付いて、弟として愛してくれるのでは?と期待していました。諦めきれないでいた」

本当に、今でも心から、どうして嫌うのだろうと不思議にすらなる。

「貴方達は僕を、娼婦の息子だからといって頭から蔑んできた。そんな到底希望を持てない中でもです。だから僕は貴方達を恨むより、その愛を外へ求めたんです」
「人のせいにするな!そんなのは正当化するための言い訳だ。甘えるな!」
「それでは僕は、出生というどうしようもない理由で侮蔑されても耐えねばならず、更に期待通りのいい子で居なければならなかったんですか?」

ギルバートは迷い無く、即答でそれを当たり前だと言った。

「僕はそんなことに耐えられません。それを母のせいにして出来が悪いと言うのならそれでもいい。本来なら貴方達の差別意識が批判されるべきですが、僕はもう貴方達を諦めることにしました」

恩知らず、というのはそうかもしれない。
けれど、こうでなければ生きてこれなかった。
父の愛が向けられない苦しみを破滅的な方法で誤魔化した母の様に。
家族の愛が向けられない苦しみを沢山の関係をもって埋めようとした。

「そんなに僕が嫌いなら、憎いなら、もう希望は持ちません。ですから貴方がたも僕に期待をするのはよしてください。僕は貴方達の犬にはならない」

どれだけ侮辱され罵られても、従順にしっぽを振る忍耐力も忠誠心も無い。
それでも絆を信じて待てる器は無かった。
ギルバートは歯を剥いて唸るように声を上げ、応接室のテーブルを叩いた。

「俺がこれだけお前をまともにしてやろうと骨を砕いても、下賤な犬根性が抜けんのか!」

くらりと目の前の景色が揺れたような気がした。
僕が僕なりに愛を求めたように、彼も彼なりに思ってしてくれていたのではないか。
憎しみばかりでしていたと思っていたが、彼は、何とか父に愛されるよう僕を正して、家族の枠に入れてくれようと……。

まさか。

しかし。

「当てつけのようにいつまでも売春婦の息子に甘んじて…!そんなに死んだ母が恋しければ何処へでも行ってしまえ!お前には野良犬がお似合いだ!」

そんな。
何故これまで気付かなかったのか。
そうだ。
遠慮して僕がいつでも本音で彼にぶつからなかったからだ。
彼とこうして正面から話そうとしなかった。

彼は。ギルバートは、僕が母のことで彼らを恨みに思い、当てつけで奔放な生活を送っていると思っていたのか。
何を訴えても、恨み言だと。
彼らを責めているのだと。

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あきゅろす。
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