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好きと暴言を盛大に
短編オリジナルです。
今回は、待ち続ける物語です。
〜〜〜〜〜〜〜〜
『またもう一度。会えたその時は…』
『あぁ、その時は、婚礼の義を…』
そう言って抱き合って。
そう言って涙を流し。
そう言って口づけをかわし。
そう言ってほほ笑んで。
そう言って体を離した。
それは確か
12年前の、
星空がきれいな日だった。
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風が髪をさらい、後に流れるように舞う。
それが鬱陶しくて、耳に髪をかける。
辺りは草木が茂り、花も咲いている。
そこからは、小さな町が見渡せて、海も見える綺麗な場所だ。
私がいるそこは小高い丘の上にある、小さな家がある。それには私が住んでいたりする。
「まだ…来ないのかな?」
20歳ごろに、私と黒髪の彼…ロイ・マスタングは、婚約という嘘っぽいような約束を交わした。
彼はちょうどイシュヴァール戦争に出かけるために私との縁を切った。いや。切らせたと言った方が正確だろう。だってあの時、私には彼のようには強くなかった。いつなくすかもわからない彼をこのまま愛せる自信がなかったのだ。まぁ、今は違うのだが。
「……どうせあなたの事だから……忘れているのだろうけど…。でも…」
覚えている私からすれば、連絡の一つくらいは欲しいものなのよ。ロイ。
そう呟いて、溜息を吐いた。確かに彼の活躍は新聞などで拝見している。戦争が始まれば、新聞記事にある死亡者名簿の欄を確認して。彼が生きていることはわかっている。だけども、心はとても不安なのだ。
「クリス先生!」
その声の主を見ると、小さな。まだ8歳前後の子供がいた。
「あら、シャルレ。久しぶりね。どう?足の具合は」
「うん!もう治ってるよ!だって、クリス先生に治療してもらっているんだもん!」
満面の笑みを浮かべたシャルレは、私に抱きついた。
そう言えば、私の職業は医者である。ちなみに錬金術も使える。ロイのような国家錬金術師さんたちには、すごく劣るけどもね。
「よかったわ。それなら安心して、また勉強できるわね」
「そうだね!クリス先生の授業分かりやすくて、父さんより、う〜〜んといいや」
手を大きく広げて、そういった。
ちなみに。私は教師もしています。
「こらこら。そんなこと言わないのよ。あなたのお父様だって、頑張っていらっしゃるの
ですから」
「ちぇっ。でも本当の事だもん」
子供の素直さというのはなんというのか。私にとっては嬉しいが、父親に限っては肩を落としショックを受けるだろう。
私はポンポンと頭を撫でて、ふと前を見る。
「あぁ。そういえばシャルレ」
「なぁに?先生」
「シャルレは、畑のお手伝いはしないのかしら?授業は明日ですもの。お手伝いをしないと」
そう言うと、シャルレがばつの悪そうな顔をした。
「何かあったの?シャルレ」
「…ぅん…」
シャルレは小さな声でそう言った。そうすればしゅんと小さくなる。
私は少し微笑んだ。
「シャルレ。どうかしたの?良かったら、聞かせてくれないかしら?」
「…先生。怒らない?」
「えぇ。怒らないわ。だから、話してみなさい。シャルレがそんな悲しそうな顔をしていると、私も悲しいわ」
そう言って、シャルレと同じ目線にする。
「………実はね…僕の母さんが倒れたんだ。それでね。僕、看病していたんだ。そうしたら、父さん。なぜだか突然怒り始めて…。それに最近は、お酒もたくさん飲んでてね…僕、なんだか怖くなって…」
シャルレは泣きそうな顔をして、そういった。ぼそぼそと、心細いというような声で。
彼の父親からは聞いていたし、彼の母親は私の患者だから、誰より知っている。
彼女はもう長く生きることはできないと…――――。
そんな時賢者の石と言われる伝説のものがあれば救えたのだろうかと一瞬考えた。
きっと彼の父親は、八つ当たりをしてしまったのだと思う。愛するものを失ってしまう。その恐怖心から。
「大丈夫よ。シャルレ。あなたのお父様はきっと反省しているわ。あなたにそんな態度をとってしまったことをね」
そう言いながら頭をなでる。
「大丈夫。今からお父様のところへ行きましょう。私からも話してあげるわ」
「…ねぇ、先生。大丈夫かな?父さんに母さん」
彼は不安そうな声でそう言った。
そんな彼の不安を取り除くことが出来ればと思いながら、手を握った。
「大丈夫よ。心配ならば、診察もしてみるわ。私は医者ですもの。あなたのご両親の悪い所なんてすぐに見つけてあげるわ」
「クリス…先生…」
「ね?だから行きましょう」
そう言って立ち上がり、手を引いた。
少し話をしながら歩いていく。もうすぐで彼の家に着くというところ。青い軍服が目に映った。
「わぁ!軍人さんだよ!先生!」
「そ、そうね。軍人さんがいるわね」
「かっこいいなぁ!みんなを守る人ってさ!だから僕、将来軍人さんになりたいの!」
シャルレそう言って笑った。
その言葉が、心なしかうれしい。彼が…ロイが選んだ道だからなのだろうか。
「えぇ。カッコいいわね。軍人さんは。私たちを守ってくれる人たちですものね。でもね、シャルレ。私はあなたが軍人さんにはなってほしくないわ」
少し立ち止まって、そういう。
そうすればシャルレは首をかしげた。
「どうして?」
「だってシャルレが軍人さんになってしまったら、命を落としてしまうなんてことがあるかもしれない。私、シャルレがいなくなってしまうのはいやだわ」
真剣な声でそう言った。
少し震えていたのかもしれない。
でも思ったのはただひとつ。“戦争なんかで命を落とすかもしれないなんて、そんなのはいや。もう死亡者名簿の欄をみて心配をする人数を増やしたくない”。
「先生が言うなら僕やめる!だって僕先生の事大好きだもん!」
「フフッ。ありがとうシャルレ」
そう笑って、また歩き始めた。
============
彼の家を出て、2時間ほど。
ようやく自分の家に差し掛かった。
「うぅ…買い物…多すぎた…」
そう呟きながら、よいしょよいしょと重たい荷物を持って坂を上っていく。自分の大好きな家だが、こんな時は少し恨めしく感じてしまう。
いつもなら30分くらいで登れる道を結構な時間をかけて登っている自分に少し腹が立った(どうして夕飯の買い物をしていたつもりが、服や雑貨なども買い込んでしまったのかという、数時間前の自分にも腹が立った)。
「ぅ、しょ、よ、しょ」
ちいさな掛け声を出しながら、額に汗をかきつつ登っていく。あぁ、帰ったらまず服を変えよう。ただでさえ夏場で汗をかいて濡れてしまうというのに、こんなにも汗をかいたら服が張り付いて気持ち悪いと言ったらありゃしない。お気に入りの白衣も台無しだ。
そう思っていると突然荷物が軽くなった。
「ほぇ?」
「お困りですかね?金髪の綺麗なあなた」
それは、いつも聞きたいと願っていた声のような気がした。
あぁ、ついに幻聴まで。末期だろ私。そう思いながら振り返り、荷物を持ってくれた人にお礼を言おうとする。
「あぁ、ありがとうございます。でももうすぐなので、全然困っていません。本当ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて、頭を上げた。と、幻覚なのかなんなのか。愛しくてたまらなくて、会いたいと願っていた彼がいた。
「は?」
「やぁ、クリス。久しぶりだね。何年ぶりだい?」
「えっと、たしか12年ぶり…」
「あぁ、そうだったか」
最近忘れっぽくてね。
彼はそう笑いながら言った。
本当に彼なの?本当に貴方なの?
「本当に…ロイなの?」
思わず聞いてしまう。そうすれば、優しい笑顔に彼はなった。
「あぁ、そうだよ。私は、ロイ・マスタング。君との約束を守りに来たんだ」
その瞬間、涙があふれる。
何年間も思い続けていた。
貴方がどこかへ消えてしまうのではないかという不安を抱え。
貴方が今どこにいるのかもわからなくて。
最初のころは、涙が絶えなくて。
「ロ…イ…ッ…!」
何が何だかわからない感情が混ざり合う。
手にしていた荷物がすべて手から滑り落ち、立てなくなり、地面へへたへたと座り込んだ。
「っぅ〜〜〜!!!」
「クリ、クリス!どうしたんだい?どうして…」
「ばかぁ!なんで連絡の一つもよこさないのよ!バカでしょ!アホでしょ!ふざけないで!私がどれだけ心配したと思っているのよ!わかっているの!?もう!心配したんだから!私が不安で仕方ない間浮気はしていないでしょうね!?浮気なんてしていたら承知しないから!そんなことしてたら今すぐ死んでやる!バカ!バカバカバカ!」
いつの間にか私は抱きしめられていて、彼の胸をドンドンと叩く。12年間我慢してやったのだ。泣くことも、誰かを愛することも、あなたに迷惑かけることも、ね。
だから…それくらいいいでしょう?
「ロイのばかぁ!アホ!意気地なし!錬金術バカ!軍人バカ!雨の日は無能のくせに!湿気たマッチ!大っ嫌い!嫌い!嫌い嫌い!でも大好き!好きで好きで仕方なくて!なんで嫌いになれないのよ私!大好きよ!バカ!アホ!好き!」
盛大な告白と共に、暴言を吐く。そして好きって言って暴言を吐いて…それを繰り返した。
少し落ち着いて、ロイを見上げる。
「…ねぇ、ロイ…」
「ん?」
「私ね、今ここで医者と教師やってるの。頑張って両立して。それにね、少しだけだけど錬金術も使えるようになったのよ?すごいでしょ。頑張ってたんだからね。ロイがいない間、ずっと。ず〜〜っと!だから…」
少しためらって、顔を赤くする。ロイは何を言いたいのかわかったらしくにやりと何かたくらみの顔をしていた。
「ん?なんだね。早く言ってごらん」
「その…えと…」
「早く。私も時間がないんだ」
「あ、う、その…」
深呼吸をして、きっと睨むように、彼を見た。
「だから、私を捨てたりしたら許さないから。浮気したら、絶対に毒殺してやる。わかったわね?ロイ!」
そう言えば、もう私の顔はゆでだこ状態で。もう恥ずかしすぎて顔を彼の胸にうずめる。するとくすくすと笑い始めた。
「なによ…?」
「ん?いや。クリスも頑張っていたんだなと思ってな」
「…で?どうなの?私を捨てる?それとも、私との約束を守ってくれる?」
むすりとしながら、そう聞いた。もちろん顔はうずめたまま。
「クリス。顔をあげて?」
「いや…」
「……まぁいいか」
彼は私の頭をポンポンと撫でる。まるで子供をあやすように。
「クリス。私と共に生きてはくれないか?」
「…本当に、約束を守ってくれるの?」
「あぁ。そのために君の元へ来たんだ。君との約束を守るために」
私は顔を上げる。彼は優しい笑顔で、私も自然と笑顔になった。
「ロイ…。ありがとう…。嬉しいわ。本当に…大好き」
そう言った。
何を言えばいいかなんてわからない。だから、ギュッと力を込めて抱きしめた。
そうすればロイも抱きしめ返してくれる。
「愛してる…クリス。今までも、これからも…」
その言葉以外はもう何もいらない。そう思った。
本気で私を愛してくれているこの人を、もう二度と手放しはしない。
「私も、愛してる!ずっとずっと!愛してるわ!ロイ…!」
私は満面の笑みを浮かべ、彼の唇へ口づけをした。
そうすればロイは笑って、私に口づけをしてくれる。
まるで、この12年間を埋めるように。
どれくらいの間そうしていたのだろうか。
私たちは唇を離し、ほほ笑む。
「愛してる。クリス」
「私も愛してる。ロイ…」
そういってまた口づけを交わした。
=============
おまけのようなもの
ロイside
あの後すぐに彼女の家へ帰った。そして辺りを見回す。幼いころの面影とあまり変わっていない。いや、むしろまったくだろうか。
「何も変わっていないんだね。ここは」
「えぇ。あなたが来た時のためにって、変えなかったのよ。…ううん。ちがうわね。変えることなんてできなかったのよ」
そうやって優しく微笑む彼女を見てどきりと年甲斐もなく胸が鳴った。
美しい金髪に美しい漆黒の目。その少し高い声に、思いやりのあるところ。何も変わってなどいなかった。
「そういえば、先ほどの金髪に青い目の…そう。シャルレとか言ったかな。彼はどうなったのかね」
「彼…?彼はきっと笑っているわよ。シャルレの母親は長くは生きられない。だけれど、その分あの家族にはしっかりと思い出や絆。些細な幸せとか…そんなものを築いてもらいたいわ。まぁ、もしもの時は少しでも楽にしてあげたいし、もしまだ生きることが出来るのなら直してあげたいけどね」
もうそれは、私の技術などでは到底無理だから…。
彼女はそう呟いて、ふさぎ込んだ。
「というか、なんで知ってるのよ?そのことをさ」
「ん?あぁ、たまたま君がここから小さな子供と手をつなぎながら歩いていくのが見えてね。つけてみたんだよ。そうしたら君の有能ぶりが見えたのでね」
私はそう言って、彼女を見た。少し顔を赤くさせている。
あぁ、可愛いし美しい。
「はぁ…ところで。今日の夕飯食べていくのかしら?」
「あぁ、頂こう」
「今日はパスタね。ついでに何か食べたいものある?」
「いや、何もない。…が星を眺めて食事でもしないか?」
「あら、いいわね。今は夏の大三角がよく見えるわよ」
「いいね、それは。では、テーブルの準備をしてくる」
そう言って、外に出ようとした。だが、立ち止まる。
「クリス。何か忘れ物をしたようだ」
「え?なによ。何か持っていくものでもあるのかしら」
「あぁ、あるさ。たとえば…」
「たとえば?」
首をかしげる彼女に、口づけを仕掛ける。
「昔のように熱いキス。とかね」
にやりと笑って、外に出て行った。
とすると、中から“う、わ!ばっかじゃないの!?ロイ!無能が!もう!……バカ…”という声が聞こえて、にやけが止まらなかったのは言うまでもないことであった。
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