花シリーズ 番外編
サクラサク 3

 知り合った当初から、義光は百八十センチの小向野とほぼ同じ上背があり、ひどく痩せていて、ひどく顔の良い男だった。
 小向野が仕事帰りにエメラルドに立ち寄ると、義光は大抵、円形ステージのすぐ脇の、演奏家に直接触れられるほど近い特等席に四、五人の男達と一緒に座っていた。
 連れの顔ぶれは日によって違ったりもしたが、小向野の目がチカチカするような派手な色の服を着た男にしなだれかかられ、ステージ上のバンドメンバーと談笑しながら煙草をふかす義光が、この時まだ中学生だなどと、誰が疑ってかかったろう。
 今時の二十歳そこそこの若者達が自分の性癖を隠したりせず、堂々といちゃついているのを半ば呆れて眺めていた小向野が不思議に思ったのは、義光の本当の年齢ではなく、ドラムを叩いていると言った彼がいつまで経ってもエメラルドのステージに上がらないことだった。
「あれが、中三……?」
 小向野は、先輩常連客の武藤と川平が義光についてぼやいているのを偶然聞きかじり、彼の実年齢を知って驚いた。
 道理でステージに立たないわけだ。いや、立てないと言った方が正しいか。
 市の青少年保護育成条例に守られている十五才以下の子供は、エメラルドの夜の部には出演できない決まりになっている。
 出演できないなら、その同じ時間帯に保護者の同伴もなく夜の街で遊んでいる義光は、いつ警察に補導されてもおかしくない状況にあった。
 十五と知ったからには、教育者である小向野が黙って見過ごすわけにいかない。
 煙草を止めろ、家に帰れと、レストランだけでなく夜の繁華街にまで現れしつこく追い回す小向野に、当然義光はキレた。
「あーもー、うぜぇ。そんなに俺が気に入ったんなら、相手してやってもいいけどさ。俺はタチしかやんないけど、それでいいよね」
 否応を言わせぬ台詞に怒気を含ませ、歩道に立ち止まった義光の顔を、通りすがりの車のライトが照らす。
 長めの髪をかき上げあらわになった義光の目が、挑発するように小向野に向けられた。端麗で蠱惑的な自分の顔が、男しか好きにならない男にどう見えているのかを、充分承知しているまなざしだ。
 まばらに走り去る車のヘッドライトが時折義光の横顔に当たり、繁華街に並ぶ店先から漏れてくる照明よりも明るく、美形を浮かび上がらせる。
 車のライトは、男の視線を一身に浴びる義光を更に妖艶に見せるスポットライトだった。
 この十五には見えない大人びた中学生が、もしそこまで計算して歩道に立っているのだとしたら、武藤や川平のように片手で足りる恋愛経験の末に女性と結婚し、後はひたすら浮気もせずに生きてきたストレートなどが、到底手に負える相手ではない。
 小向野は妙に感心して義光を見つめ返した。




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