「俺、さっき高遠のお兄さんに摘まみ出されそうになった時、高遠が俺のこと友達だって言ってくれて、すげー嬉しかった」 ブルーシートの上で胡座をかき、高遠と小笠原にこの倉庫に来ることになったわけを説明しながら、亮太は晴を見た。 「あ、俺も俺も。友達って言って! なんて言われたの初めて。嬉しかった」 晴も亮太に顔を向けてそう言った。 晴がニコッと花開くように笑うと、亮太もニカッと笑い返す。亮太の笑顔はまるで、気に入った仲間をみつけた時のガキ大将のようだ。 そんなふたりの様子を眺めていた高遠と小笠原は、お互い顔を見合わす。 彼らの顔は同じことを言っていた。 いるもんだな。 いるものなのね。 自分達以外にも、晴の笑顔に惑わされない人間が。 「よし、じゃあ高遠。あんまり時間も無いし、練習始めようよ」 ふたりの心の声が聞こえていない亮太は、ポテトチップスとコーラで放課後の空腹も満たされてやる気いっぱいになり、自分の横に寝かせてあったギターケースのファスナーに手を掛けた。 その様子を、亮太の背中にギターが背負われているのを見た時から気になっていた高遠と小笠原が、興味を持って覗き込む。 すると亮太はファスナーを開ける手を止めて、 「お兄さん達はあっち行っててよ」 と口を尖らす。 「あらどうして? アンタ達の歌、聞いてみたいわ」 「俺も聞きてぇ。そういえば晴の歌なんて聞いたことなかったよな」 そんな彼らに、 「やだよ」 即座に亮太が返す。 「……何でだよ」 亮太のあまりの即答ぶりに、小笠原は気を悪くしてブスッと訊ねた。 「だって、お兄さん達バンド組んでンでしょ?」 「そうだけど?」 気分を損ねた小笠原の代わりに高遠が答えた。 「俺のみたとこ、高遠のお兄さんはキーボード弾きでしょ。そっちのお兄さんはドラムスだ」 ムスッとしてしまった小笠原を見ても全く気にした様子も無くもう一口ペットボトルのコーラに口をつけると、亮太はドラムセットが置いてある方向を指差しながら続けた。 「あそこにギター用のアンプとエフェクター(音の変換装置)も揃ってる。古いけどあれ、結構いいヤツじゃん。こんなでっかい練習スタジオとあんな立派なの持ってる人達の前で俺、ギター弾きたくない。うるさいンだもん」 亮太の言葉に高遠と小笠原は大いに驚く。 「アンプとエフェクター…… あれの価値が分かるの? アンタ、エレキギター弾いてる?」 「お前、俺がドラムでタカがキーボードって何で分かった。晴に聞いたのか?」 「ほらね、うっさいでしょ」 勢い込んで質問攻めにする彼らに、ため息をつきながら亮太は晴を振り返って言った。 そう言われた方の晴も珍しいことに、苦笑いをしている。 「先輩達は音楽のことになると、夢中になるからね。周りが見えなくなっちゃうんだ」 「音楽やってる人って、基本みんな一緒かぁ。……あのさ、高遠のお兄さんは身体がデカイわりに指が長くて細くて綺麗じゃん。それは小さい時からずっとピアノを弾いてるから。で、そっちのお兄さんには両手にスティックだこがある。ドラム叩くの休んだことないでしょ。それくらい高遠に聞かなくたって、見れば分かるよ。そんでこういう人達は自分にも厳しいけど他人のプレイにも凄く厳しい。あーでもない、こーでもないって、すぐに口を挟む」 「はあ、ごもっともです」 言われたことに身に覚えのある高遠と小笠原は、亮太の言葉にタジタジだ。 |