贈り物をあなたに 1


「さすがお客様、お目が高いですわね」
 店のオーナーにからかい半分に褒められて、大志は苦笑いを返す。
「この店に置いてある品は、どれも良い物ばかりだからな…… 義母さん」
 ここは晴と大志の母親である松浦雨以(マツウラ ウイ)が経営する、輸入雑貨の店だ。
「プレゼントでございますか?」
 義母さんと呼ばれたにも拘わらず、雨以は客に対する態度を崩さない。
 大志が覗き込んでいたショーケースの中を見遣ると、にっこりと微笑んだ。
「オブシディアンのペンダント、中から出してお見せいたしましょうか?」


*****


 大志が雨以からの電話を受けたのは、十二月二十三日の昼少し前だった。
 高校は、今日から冬休みだ。
「帰ってたのか、義母さん」
 大志は雨以からの突然の電話に、驚きを隠さず訊ねる。
 母親は商品の買い付けに北欧を廻るから暫く帰れないと言って、仕事に出掛けたからだった。
「ああ、今空港に着いた。あちらはもうクリスマス休暇に入ったから、仕事にならないんだ。ところで大志。お前、今から出て来られるか? 大成(タイセイ)さんも晴もいないだろ。たまには二人きりで、外で晩飯でも食おう」
 雨以の男のような物言いは若い頃からのものらしく、大志は父親に連れられて彼女に初めて会った時には少々面食らったが、今はもうすっかり慣れた。
 というより、大志のぶっきらぼうな現在の言葉遣いは、雨以からの影響が大きい。
 雨以は、大志を産んだ母親ではない。
 大志が小学五年生の時に父、大成と再婚し松浦姓となった、所謂義理の母親だ。
 大志は生まれてから十一になるまで父親が生きていることさえ知らず、親戚の家をたらい回しにされていたのだが、それを聞いた雨以が大成を一喝した。
「自分の可愛い子供を放っておく親がこの世界のどこにいる、バカモノがっ。今直ぐに連れて来い!」
 そうして目つきのすこぶる悪く子供らしさの欠片も無い、お世辞にも可愛いとは言えない大志の母親となったわけだ。
 大志は自分の父親を、あまり好きにはなれなかった。
 人間嫌いな大志にとって口が達者でいつも調子のいい大成は、一番苦手とする部類に入る。
 自分と血が繋がっていることは一目瞭然なのに、以前少しだけ一緒に暮らしていた物静かな祖父と全く似た所の無い大成を、どうしても父親だと思うことができなかった。
 そればかりか好ましく思っている義母の雨以が、何故このノリの軽い男と結婚したのかも納得できない。
 それでもそのお陰で、家族というものを知らずに育った自分に初めて家族ができたのだが。
 雨以のいる家は、彼女の性格そのままにどっしりと落ち着いていて、居心地が良い。
 何事にも鷹揚な彼女の大きな懐に抱かれていると、オレはここにいて良いのだと安心することができた。
 大志は自分を産んだ本当の母親の顔どころか、名前すら知らない。
 そんな生きているのか死んでいるのかさえ分からない人よりも、初めて「母」と呼ぶことができたこの義理の母こそが、自分の「母さん」だった。




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