贈り物をあなたに 2


 雨以が産んだ息子で大志より四つ年上の義兄、晴は、兄弟になった時には既にロックバンドに入って歌っていた。
 彼の見た目の華やかさと伸びのある歌声、バンドメンバーの素人離れした演奏の上手さが評判を呼び、結成当時と変わらないメンバーでインディーズデビューを果たし、それから二年経った今ではそこそこ名の売れた、メジャーデビュー有望株のバンドのひとつに数えられるまでになっていた。
 晴はインディーズバンドが集まるクリスマスフェスティバルに参加するために、昨日からメンバーやスタッフと共に北海道に行っている。
 父の大成は自称風景画家で、絵を描くためと称して一年の殆どを旅行に費やし、滅多に家には帰ってこない。
 雨以からの夕食の誘いは、クリスマスをひとり家で過ごす大志を気遣ってのものだった。
 高校二年生にもなって家での留守番が寂しいわけがなかったが、普段ぶっきらぼうで男のような雨以の母親らしい心遣いが、大志には嬉しかった。


 雨以の店で落ち合う約束をして、大志は着替えを始める。
 着る物に拘りは無かったが、ラフな服装でいいと言われたので、濃紺のリネンのタートルネックのセーターに明るめの色のジーパンを合わせ、その上にこれもまた明るい銀に近い、グレーのダウンジャケットを羽織る。
 このジャケットはお前の顔が映えると言って、今年の冬の始めに晴が買ってくれた物だ。
 自分の姿を鏡に映すと、十七才にはとても見えないと誰もが口を揃えて言う通り、そこには百八十センチを越えた長身で、父親そっくりの男が立っている。
 父親にはこの半年程会っていなかったが、晴に散々髪を切れと注意され、渋々切ったことではっきり現れた自分の顔を改めて見れば、確かに顔も背丈も瓜二つだった。


*****


 雨以の店は、自宅から電車で一時間半かかる隣町にある。
 この町は県庁がある大きな都市だ。
 駅前の公園に豪勢なクリスマスイルミネーションが飾られていて、その公園をぐるりと囲むように洒落た店舗が立ち並んでいる。
 そのうちのひとつ、輸入雑貨の店“ククサ”が彼女の店だった。
 焦げ茶色をした木造二階建ての、クリスマスに降る雪が似合いそうな、北欧風の落ち着いた雰囲気の店だ。
 一階は、雨以が様々な国から集めてくる日用雑貨で溢れている。二階には、アクセサリーと絵画が置かれていたが、絵画といっても無名に近い画家達の絵を、雨以の気に入った物だけ置いているので、高価な品は無い。
 クリスマスプレゼントを求める客で、店は混雑していた。

[店に着いた。二階にいる]

 大志は短いメールを雨以に送ると彼女を待つ間、他の客と一緒に店の中を物色することにした。
 父親大成の絵が、以前に来た時より増えているのを確認し、振り返ってショーケースの中を覗き込む。
 その中に置かれていた、オブシディアン―― 晴のいるバンドの名と同じ、黒耀石のペンダントに目を奪われた。
 縦二センチ、横一センチくらいの、黒耀の名の通り真っ黒な石を、凝った植物模様を施した銀細工が覆っている。

 男の人がしても、おかしくないかな。

 大志がじっと見入っていると、
「お気に召されましたか?」
 背後から声をかけられた。
 振り返るまでもなく義母、雨以の声だった。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!