命ーミコトー
6
今日は金曜日。今日で無事、補習も終わり、私にも2週間ばかり遅れて夏休みがやって来た。
勉強から開放され、今は悠々とテレビを見ていた。
蓮見の部屋で…
「お前らはいいな…。」
夕方ごろ、蓮見が帰ってきた。疲れたからだで家に帰って目にするのは、教え子が夏休みになって自分の部屋でダラダラとテレビを見ながらくつろいでいる様子。
「俺にも、俺にも早く夏休みをください!」
夕日に向かって叫ぶ蓮見。だけど、いくら夕日に願っても、夕日が何とかしてくれるわけが無い。
蓮見はキッと私と藤家を恨めしげに睨んできた。
「ちくしょう…お前ら、クーラーぼんぼんかけて、テレビも見て、アイスも勝手に食べて…もう少し遠慮しろ!」
「金持ちなんだから、ケチケチすんな。」
「アイスは自腹なんだああ…。」
窓際でしゃがみこんで蓮見はいじけている。どうやら、最近補習の後の仕事をおろそかにしていたので(それはそうだ。私と藤家とまっすぐ帰宅していたから。)、仕事が溜まりに溜まって、まだまだ夏休みはもらえないらしい。
それで疲れて帰ってきたらこの様だ。そりゃあ、腹も立つだろう。
「それにしても、何でお前らいちいち俺の部屋に集まるんだ。お前らに部屋貸してやっているだろう。」
そういえばそうだ。
私と藤家は顔を見合わせた。
「だって、居心地いいんだもん。この部屋何だか雰囲気が暖かくて柔らかいっていうか。光の狛だからかなあ。」
「ああ、俺も落ち着く。」
影の狛である藤家は、無意識のうちに自分と正反対の性質を求めるのだろうか。
蓮見といつも喧嘩ばっかりしているものの、気づけば割と近くにいる。
私は蓮見と藤家の二人をじっと見つめていた。
そういえば、どうして光の狛と影の狛は、ミコトの巫女と別れてしまうことになったんだろうか。
ミコトの巫女の代を最後に、その後狛に関する記述は一切残っていない。
狛という存在が消えてしまったのだ。神社の狛犬の石像まで消えてしまうなんて変だ。
そして、どうして今、光の狛と影の狛がまた再び現れたのだろうか。
私のこの赤い目、ミコトの巫女から引き継がれたものも何かしら関係しているのかもしれない。
最近、こんなことを考えるようになったのだが、その度に何か頭にストッパーがかけられているかのように、頭が割れるように痛くなり、気持ち悪くなるのだ。
何かが、考えさせる、思い出させるのを阻止するかのように…。
『ミコト…』
え…?
『ミコト、ミコト…』
知らない男の人の声が頭に響いてきた。何故か、なつかしい感じがする。
『ミコト、おいで…』
頭がグラリと揺れて、床に倒れこむ。
「おい!榊、どうした!?大丈夫か!?」
「榊?」
蓮見と藤家が私に駆け寄る。でも、頭が働かない。
乗っ取られたかのように、体だけが勝ってに動き、立ち上がった。
「榊…?」
「行かなくちゃ…」
「え?」
「あの人のところへ…」
「あの人って誰だよ?」
蓮見が私の腕を掴んだが、私はそれを振り切って部屋を出て行った。
足は独りでに動き、私をあの人のところへ、あの場所へ運んでいく。
私は、どこに向かっているのだろう?
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